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「おはよ……」
彼女は不機嫌そうにそっぽを向きながら言った。俺の心臓は一瞬にしてトップギアに入り、どくんどくんと歓喜の音を上げ始めた。
か、かわいいー!!!
栗色をしたくるくるの癖っ毛に、少し吊り上がった猫目。主張が控えめな鼻とアヒル口。その全てがドストライクである。
「なぁ楓。そんな仏頂面してると、いつまで経っても友達なんてできないぞ」
やれやれと言った調子で主人公が言った。楓。確か主人公の幼馴染であり、ヒロインの一人だ。
「はぁ? アンタには関係ないでしょ」
唇を尖らせる楓の表情はこの世のものとは思えないほどキュートで、俺の心臓をがっしり掴んで離さない。運命だ。運命の人だ。まさか小説の中の世界で、運命の人に出会ってしまうなんて。
「あるさ。お前には楽しい学校生活を送ってほしいんだよ。俺が」
「……何それ。うっざ」
そう言いながら、楓はまたそっぽを向いた。
俺は思い出す。そうだ、楓はこの小説のヒロイン。それはつまり、彼女も主人公のハーレム要員の一人であるということ。
俺の恋は始まった瞬間から終わっていた。
その後、すぐに制限時間がやってきて、俺は現実のベッドの上に引き戻された。
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