ダイブ2〜君と運命の一冊〜

3/12
前へ
/12ページ
次へ
「おはよ……」  彼女は不機嫌そうにそっぽを向きながら言った。俺の心臓は一瞬にしてトップギアに入り、どくんどくんと歓喜の音を上げ始めた。  か、かわいいー!!!  栗色をしたくるくるの癖っ毛に、少し吊り上がった猫目。主張が控えめな鼻とアヒル口。その全てがドストライクである。 「なぁ楓。そんな仏頂面してると、いつまで経っても友達なんてできないぞ」  やれやれと言った調子で主人公が言った。楓。確か主人公の幼馴染であり、ヒロインの一人だ。 「はぁ? アンタには関係ないでしょ」  唇を尖らせる楓の表情はこの世のものとは思えないほどキュートで、俺の心臓をがっしり掴んで離さない。運命だ。運命の人だ。まさか小説の中の世界で、運命の人に出会ってしまうなんて。 「あるさ。お前には楽しい学校生活を送ってほしいんだよ。俺が」 「……何それ。うっざ」  そう言いながら、楓はまたそっぽを向いた。  俺は思い出す。そうだ、楓はこの小説のヒロイン。それはつまり、彼女も主人公のハーレム要員の一人であるということ。  俺の恋は始まった瞬間から終わっていた。  その後、すぐに制限時間がやってきて、俺は現実のベッドの上に引き戻された。
/12ページ

最初のコメントを投稿しよう!

8人が本棚に入れています
本棚に追加