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「……介……おい、謙介!」
「わっ、びっくりした。急にデカい声出すなよ」
「何回も呼んだだろうが。ったく、俺らといる時にボーッとしてんなよ」
「わり。ちょっと、失恋のショックで……」
「は? お前好きな人いたん?」
驚いたような千聖の顔が、窓から差し込む西日に照らされている。俺は、そういえば放課後いつメンで教室に残り駄弁っていたんだったと思い出す。
「そっか、失恋か……なら俺が笑わせてしんぜよう! ほら、いないいないばあ!」
「俺は赤ちゃんか」
「ミルクちゅっちゅ! ミルクちゅっちゅ!」
「ぶっ、なんだそれ」
さっきから騒いでいるコイツ、山田千聖は俺の幼稚園からの幼馴染。馬鹿だけど顔だけは無駄に男前な、この仲良しグループのムードメーカーだ。
……ついでに、俺一推しのアマチュア作家ちぃの正体でもある。こんな奴の頭からどうやってあんな素敵な物語が生み出されているのか、ミステリーサークルやナスカの地上絵に並ぶ世界の謎の一つである。
「失恋かぁ。この本貸そうか?」
「怜……それは?」
「恋愛小説」
「失恋したやつに貸すとか鬼か」
クールで読書好きな永野怜は群れることを好まない一匹狼系男子。だけどなぜか俺たちだけとはいつも一緒に居てくれる、もしかしたらツンデレ系でもあるのかもしれない。
「おい、二人とも。真面目に慰める気あるのか? 交代しろ」
「隆将」
「えっと、謙介。俺は失恋とかしたことないからよく分からんけど、まぁ元気出せよ。女なんて星の数ほどいる(から浮気しないでね)ってこの間彼女が言ってた」
「さてはお前も慰める気無いな?」
剛力隆将は常に一歩引いて皆をニコニコ見守る兄貴みたいな存在。だけど、実は怒らせるめちゃくちゃ怖いってことを俺たちだけは知っている。ついでに最近、人を弄るということを覚え始めた。
「てか、そろそろ帰ろうぜ。たこ焼き屋寄ってこ」
通学鞄を担いで立ち上がる。「今日は俺たちが奢ってやるよ」と隆将が言うと「しょうがねぇな」「今日だけだぞ」と怜と千聖が続く。
千聖が書いた小説にも負けないぐらいキラキラと輝く、俺の青春。ただしヒロインは今のところ不在。
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