ダイブ2〜君と運命の一冊〜

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***  あれから毎日、俺はあの小説世界にダイブを繰り返し、現実と本の中の二重生活を送った。もちろん楓に会うためだ。例え実ることのない恋だとしても、近くで顔を見るぐらいは許されるだろう。  なんて、思っていたのに。 「おはよーくしゃーてりあ!」 「おはよ……」  今日も主人公と一緒に楓は登校してきた。恨めしくて、すっかり見慣れ始めた青髪の後頭部を睨みつけてしまう俺。  すると、主人公の隣の楓が、不意にこちらを振り向いた。ぱっちりした猫目と目が合い、ブワッと血液が沸騰する。 「あ、あの! 楓さん!」  気付けば声をかけてしまっていた。それは抗い難い、恋の衝動だった。 「えっと、誰?」  楓は警戒した様子だった。無理もない。俺はこの世界ではイレギュラーな存在。当然、クラスメイトでも何でもないのだから。  俺は一世一代の勇気を振り絞り、尋ねる。 「楓さんは、その、アイツのことが好きなの?」  少し離れたところで別のヒロインたちに囲まれつつある主人公を指差す。本人の口から好きだと聞ければ、諦められるとでも考えたのかもしれない。情けない話だ。  そして結論から言えば、その考えは裏目に出た。 「はぁ!? そんなわけないでしょ!」  楓は照れるわけでもなく、驚くほどはっきりと主人公への恋心を否定した。さらに、唾を飛ばさんばかりの勢いで続ける。 「この物語はハーレムモノだから、仕方なく一緒にいるだけよ! あんな全方位に好かれるようなただのスーパーマンのどこが良いわけ!? 私は本当はもっと、地味で陰気な人が好みなの……あれ、よく見たらアンタ、結構地味で陰気そうじゃない。名前なんていうの?」 「え……えっと、謙介、です」 「ケンスケ。そう、ケンスケね。残念だわ。私がこの物語のヒロインじゃなければ、アンタみたいな人と青春できたかもしれないのに」  楓は達観したような顔で溜息を吐いた。  冷静に考えれば、それはただ、ヒロインという自分の立場を悲観する言葉に過ぎなかったのかもしれない。今存在を認識されたばかりなのに、本気で自分に好意があるなんて考える方が馬鹿げている。  だけど運命の人にそんなことを言われて、黙っていることなどできるだろうか。いや、できるはずがない! 少なくとも、楓が望まない恋愛を強いられているなんて、彼女を愛する男として見過ごせん!  俺は再び口を開いた。それはやはり、どうにも抗い難い恋という運命のためだった。 「楓さん! 俺がこの物語のストーリーを変えてみせるよ! 待っててくれ!」
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