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翌日。俺はいつも通り学校で四人で過ごしながら、千聖が居ないタイミングを見計らっていた。
俺には作戦があった。ダイブのルール上、俺自身がストーリーに直接干渉することはできない。だけど作者が自分の意志でストーリーを変える場合は別だ。
放課後、千聖は「今日は全力執筆デーなのです!」とかで都合良く先に帰って行った。
「怜、隆将」
「何」
怜が読んでいる本から視線を上げて応えた。
「お願いがあるんだけど……千聖の新作小説のことで」
「ああ、あれな。俺も読んだよ。面白いよな」
隆将が自分のことのように誇らしげに言う。怜も「まぁ、悪くなかったな」と続く。俺は二人に向けて頭を下げた。
「頼む! あの作品へのページコメントで『楓は主人公以外とくっつくべき』とコメントしてほしい!」
俺の懇願に二人はぽかんとした顔をした。そう、俺の作戦とは、読者として千聖にストーリーの希望を伝えること。気軽に作者に感想を届けられるネット小説ならではの作戦だ。
まだそんなに固定読者の多くない千聖からすると、三人もの読者から同じ希望が届けばきっとこう思うだろう。「楓が主人公とくっつく展開はダメなのではないか」と。我ながら良くできた作戦だ。
「楓って、確かヒロインの一人だよな。なんでそんなことを?」
隆将が当然の疑問を口にする。
「理由は……言えない。すまん」
歯切れ悪く俺は答えた。二人にはダイブのことは話していない。話したとしても、きっと信じてもらえないだろう。今はひたすら頭を下げることしかできない。
ややあって、隆将は仕方ないなと肩をすくめた。
「お前がそこまで言うからには何か事情があるんだろう。分かった、協力するよ」
「本当か!」
俺は嬉々として顔を上げる。あとは怜の方だ。怜は少し考えるように顎に指を置いた後、ゆっくりとかぶりを振った。
「悪いけど、僕は協力できない」
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