ダイブ2〜君と運命の一冊〜

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***  ベッドの上に仰向けで転がり、目を閉じる。「そうだ、今日はこの世界へ行こう」とお決まりの台詞。  四年以上毎日繰り返しているルーティーン。だけど、この世界へ行くのは今日で最後にしようと思っている。  楓が居る世界。俺が運命の人と出会った、大切な場所。  目を開けると俺は見慣れた教室で佇んでいた。ただ、人が一人も居ない。なんでだろう思いつつしばらく待っていたら、教室の前ドアが開いて楓が入ってきた。  これで会えるのは最後だというのに、心臓は相変わらず嬉しそうに跳ねた。 「急に呼び出して、何か用? ケンスケ」 「えっ? ……いや、うん。大事な話があるんだ」  もちろん呼び出した記憶などないのだが、都合が良い展開なので今は黙っておく。きっと無意識のうちに千聖が用意してくれたプレゼントなのだろうと、そう思うことにした。  俺は意を決し、小さく息を吸った。 「俺がこの物語のストーリーを変えてみせる、って言ったけど、無理になった。本当にごめん」  俺は床と平行になるほど腰を折り、謝罪した。なんだか最近頭を下げてばかりな気がする。  少しの沈黙の後、楓はふふっと軽い笑い声を立てた。 「なんだ、そんなこと? 別に最初から期待なんてしてなかったわよ」 「え……え?」 「私は物語の登場人物だもの。作者の意のままに動くのが仕事。アンタだってそうでしょ?」  楓は退屈そうに癖っ毛の先を指で弄んでいる。もっと怒られたり悲しまれたりすると思っていたから、拍子抜けだ。  だけどそれは、楓が作者の敷いたレールの上を走ることに不満がないということじゃない。ただそうするしかないと受け入れているだけだと、俺は感じた。  最後の抵抗。その認識は何としても俺が変えてやる。  好きな人が全て諦めたような目で生きているのを、そのままになんて絶対しない。
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