「おかえり」変則

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「おかえり」変則

「ただいま〜」 と部屋のドアを開けながら()うと 「おかえり〜」 と彼女から返ってくる…これが同棲して1日目の話。でも2日目以降、彼女が()う「おかえり」がおかしい。 2日目「おかえリンゴ」 3日目「おかえリス」 4日目「おかえ料理」 5日目「おかえ理科」 6日目「おかえリサーチ」 7日目「おかえ陸上競技場」 8日目「おかえ林業」 9日目「おかえリストバンド」 10日目「おかえリンリンリーン」 更に11日目からネタがなくなったのか「おかえり」ネタの再利用が始まる。 11日目「おかえリンゴジュース」 12日目「おかえリスリスコリス」 13日目「おかえ料理教室」 14日目「おかえ理科の実験」 15日目以降もっとおかしくなる。  「おかえリサーチゴーサイン!」 (もう、それ、「おかえり」と違う(ちゃう)やん!文章やん!) 僕は、思わず彼女に返してしまった。 「ゴーサイン出た〜!ヤッター!」 16日目「おかえ陸上競技場位置について用意ドン」 「やっぱり100メートルはスタートダッシュやね」 17日目「おかえ林業電ノコで木を切る」 「ヘイヘイホーー…ヘイヘイホーー」 18日目「おかえリストバンドカッコイイ」 「キャッ!ホンマ!僕もお揃い欲しい💓」 19日目「おかえリンリンリーン黒電話」 「今、黒電話は化石やで。今はスマホやで」 20日目(今日)「おかえリンリンリーン…もしもし?」 「はいはーい!聞こえてますヨー!」 15日目以降の彼女は、僕が返したのが面白かったんか?ノッたのが嬉しかったんか?すごく嬉しそうな顔をしてくれた。特に今日はいつもに増して嬉しそうな顔をしてゲラゲラ笑っていた。 (聞くなら今日しかない!!いや、そんな事ない!もっと(はよ)聞けよっ!!って話やけど…) 僕はずっと疑問に思っていた『なんで2日目以降から“おかえり”がおかしいのか?』を彼女に聞いてみた。 「なぁ…なんでめいちゃんの()う“おかえり”は変なん?1日目は“おかえり”ってちゃんとしてたやん?でも、次の日から“おかえリンゴ”とか…今日なんか“おかえリンリンリーン…もしもし?”やで?すでに“おかえり”の跡形もないし…」 「それ、今日聞く?!」 と彼女が笑いながらツッコんできた。 「もっと早く聞いてくるかと思ったら今日やし…ずっと“いつ聞いてくるやろ?いつ聞いてくるやろ?”って、思っててんけど…今更、遅いッちゅーねん。まさかの焦らし作戦やったり?」 「アホっ!なんの焦らし作戦やねん…聞くタイミング分からへんかって、今日なんとなく良さそうな雰囲気やし、聞いてみたんや」 「タイミングって…もしかして、気遣わせてしまった?」 「いや…まぁ…気は遣ってへんけど…なんやろね?」 僕は少しだけ気を遣ってたから“なんやろね?”でごまかした。 「あー…“なんやろね?”って…ごめん…やっぱり恭ちゃんに気を使わせてたんやろうなぁ…」 (あっ…めいちゃんにバレた…) 彼女の話は更に続く。 「私の両親な、私が小さい時、離婚してん。それから母親と一緒に生活するようになってんけど。私が学校から帰ってきたら、“ただいま”って言っても“おかえり”って返ってこうへんねん…お母さん、正社で働いてくれてたから仕方ないねんけど。まぁ、当時返事がないっていうのはすごい悲しかってんなぁ。そやから自分で“ただいま”って()って、自分で“おかえり”って()う様になってん…それから大学入学と同時に一人暮らし始めてん。一人暮らしやし、しゃーないねんけど、やっぱり帰ってきて“ただいま”って言ったら返事ないやんか。その時ふと、“おかえり”って言える人が見つかったら、“おかえり”を楽しくしたいなぁと思ってん…ほんで…“おかえリンゴ”」 「ほんで“おかえリンゴ”かぁ…ふーん…そんな理由があったんか…。最初聞いた時、めいちゃんの頭“大丈夫か!?なんかわいたか!?”って、思ったけど。でも、段々“今日なんて()ってくれるんやろ?”とかちょっと期待したり楽しみになったりしてたわ」 「うん!期待してるのは分からへんかったけと、途中から楽しんでくれてるの分かった!」 彼女が嬉しそうに笑う。 僕はさっき彼女が話していた“おかえり”を楽しくしたいなぁと思ってん…”に思いついたことがあって、彼女に耳打ちする。 「あんな、明日の“ただいま”楽しみにしといてな」
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