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『――テストプレイヤーの皆さま、お知らせします。全員の方が揃われましたので、これからについて簡単にご説明させていただきます』
外にアナウンスが流れるのが聞こえた。どうやら今の放送によると僕が最後だったらしい。ジョブと名前、髪と目の色を選ぶだけなのに2時間もかかる人間ってやっぱり少ないんだね。まあそれも無駄になったんだけど。皆さんお待たせしてすみません。
『今現在、この世界には499名のプレイヤーの方がいらっしゃいます。ゲームの最終的な目標としては、今この世界の脅威となっている魔王軍を滅ぼし、魔王を倒すことです』
『魔王軍には、名前に№1~№50までの数字がついた上位魔族がおり、その全てを打ち倒さないと魔王のもとには辿り着けません。まずはこの上位魔族を探し出し、倒すことがプレイヤーの皆さまの目的となるでしょう』
499人。半端な数だ。きっと僕を含めて500人のテストプレイヤーがいる。そういうことかな。そして、聞き捨てならない話が後半にあった気がする。なんて? 名前に№のついた魔族? それさっき見た!
それをすべて殺さないと、クリアできないらしい。ということは、少なくとも攻略組の誰もがその魔族を殺そうとするだろう。……あれ、これヤバくない……?
『最終的な目標を達成できたパーティーには、日当とは別に、賞金として300万円を差し上げます。次のご説明は1週間後の13時からを予定しておりますので、その時刻にはこの始まりの街にお集まりください。では、次回お目にかかるのを楽しみにしております』
300万円。大金だ。これできっと、攻略組は増える。しかし、僕はそこでふと不思議に思う。日当が確か1万円、1か月で30万円。それが500人。合計1億5000万円。
……え、ほんとに!?しかし何度計算しなおしてもやっぱりそうなった。そして賞金300万円。……単なるゲームのテストプレイにそんなに資金をかけるなんてこと、あり得るのだろうか。
まあとにかく。№がついているということは、僕は上位魔族らしい。上位魔族を全滅させるのがラスボスへの道らしいから、上位魔族はたぶんプレイヤーに乱獲される対象なんだろう。きっと上位魔族を沢山倒したらボーナスとかもあるんだろうなぁ。
……やばいね。どうしようか。まずは、さっきやろうと思ってたステータスの改ざんからかな。今何ができるかをまずは把握せねば。ステータスをもう一度確認!
〈ステータス〉
名前:サロナ(№38)
種族:魔族
レベル:1
ジョブ:スパイ(魔王軍)
攻撃力:2
防御力:2
素早さ:4
魔力:3
運:1
HP:3
MP:4
(スキル)
認識阻害……幻覚を見せることができる。ステータス表示を改ざんできる。
ボス特性……全状態異常無効。
悪い点としてはステータスが低いところ。良い点はスキルが強力なところか。ステータスの低ささえ何とかなれば、問題は解決するかな。
よし、ステータス改ざん! 認識阻害、起動せよ! 認識阻害はステータスに意識を集中し、数字を上書きするイメージで、あっさりと発動させることに成功した。そして、その成果がこれだ!
〈ステータス〉
名前:サロナ(№38)
種族:魔族
レベル:10000
ジョブ:スパイ(魔王軍)
攻撃力:9999
防御力:9999
素早さ:9999
魔力:9999
運:9999
HP:1000000
MP:2000000
TUEEEEEEE! プレイヤー共、全員かかってこいや。ぼっこぼこにしてやんよ。この状態でとりあえず反復横飛びをしてみる。あれ、でもあんまりさっきと変わらないな……? 素早さ9999とは思えない気が……。
しばらく続けていると、足がもつれて転び、受け身も取れないまま床に体の側面を激しくぶつけた。鈍い衝撃が来て息が止まり、わき腹がめっちゃくちゃ痛い。うずくまったまま痛みが過ぎ去るのを待ち、認識阻害を解除すると、なんとHPが3から2に減っていた。
……いやひ弱すぎ! あと2回転んだら死ぬの!?
ちなみに、このゲーム、痛みは通常の1/5のレベルで再現してるんだとか。死んだら現実の死の1/5のダメージを脳で感じるってことになるから、そうなるとすごくヤバい気がする。プレイヤーは死に戻り前提だろうから、現実の死の1/5の痛みを何度も経験するのか……。あっちはあっちでかわいそう。
とりあえず、検証が終わったので整理しよう。ステータス改ざんは、表示が変わるだけだ。強さは変わらない。
つまり、この底辺のステータスで何とかやりくりする必要がある。ただ、この能力値で相手にダメージを与えられるのかどうか……望み薄かな。
ならここは認識阻害のもう一つの能力で、何とかしていくしかない。「相手に幻覚を見せることができる」。これを利用して、敵を倒し、レベルを上げる。レベルが上がればステータスもマシにはなるだろう。たぶん。
ただ一つ問題になるとしたら……魔族がレベルを上げるときって、やっぱりプレイヤーを狩らないといけないんだろうか。勝てそうにないんだけど。
そして、スキルの2個目。ボス特性。果たしてこれまでこんなにステータスの低いボスがいただろうか。でも、これってすごくいいスキルだよね。最高と言っていい。状態異常無効。まあ腹パン1発で沈むから、倒すのに状態異常に頼る必要なんてないんだけどね。
その後、とりあえず鏡の前に行き、外見をチェック。たぶんバランスが悪いのって、体型が現実の僕と違うからだと思う。
僕は現実では170センチ弱、60キロくらいなんだけど。今の外見はうーん、150センチないくらいで、50キロ弱くらい。年齢的には16歳くらいかな。高校生くらい。慎重に動けば足は絡まないのは、たぶん現実の僕と今のこの姿で足の長さがそんなに変わらないからか。くそう。
髪は暗めの緑、目は紫。肩より少し下まで伸びた髪は、くるくると少し癖がついている。顔は整ってるけど、第一印象としてはいい子そう。こんないい子っぽい人がスパイだった日には人間不信になるわ。ひどい。「外見をいじれない」という前提がさらに卑怯。
……でも僕は死にたくないので、プレイヤーを積極的に騙すつもりではあった。すまぬ。プレイヤーの皆様、恨むなら運営を恨んでくれたまえ。
そして、外見チェックの後。鏡の前から歩いて戻る最中にバランスを崩し、ベッドの角に頭をぶつけたことでHPが1になったため、その日はそれで休み、次の日からゲーム攻略を始めることとなった。前途多難である。
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