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「もう1つは、直登ルートといって、急な道が続くけどよりスピーディーに山頂を目指せるのよ」 エティエンヌは一瞬、直登ルートと口にしかけた。 15年という月日に対し、まわり道だと考えていたせいだ。 すぐにでも山頂を目指したい。そんな欲求に駆られる自身を自覚する。 (……いいや、違う) 彼は思いなおした。15年前と同じようになるわけにはいかない。 「梨々香。まわり道をいこう。僕たちが歩んできた道は、決して短いものじゃなかった。でも、こうして今は、君と過ごせるんだ。この時間と同じように、一緒に進めていくことが大切だって、今ならわかるよ」 梨々香は静かに彼の言葉にうなずいた。 15年前。結婚後の生涯について恐れおののき、逃げ出した自分を恥ずかしく思い続けていた。 それでも料理の道からは離れられず、ただ1人、考え、迷い、それでも自分自身と向かい合ってきた。 人生は山のようなものだ。 唐突に谷が現れることもあれば、知っている道に巨石が立ちふさがることもある。 それでも。人は登り続ける。その先に待ち受けるものを、知るために。 2人は手を取り合う。 そして穏やかに会話を弾ませながら、ゆっくりと、登山道に向かう道へ足を踏み出したのだった。
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