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20分ほどすると、古城を思わせる落ち着いた佇まいのレストランが現れる。 入り口には赤いゼラニウムの鉢植えが並べられ、大きなガラス窓のついた扉の向こうには、穏やかなランプの明かりがいくつも見えた。 黄金の筆文字で看板に描かれた店名は『リーヴ・アンシエンヌ』。フランス語で古の夢という意味だ。 エティエンヌが来日したそもそものきっかけは、フランスで見つけた日本のレストランガイドブックだ。 そこには、諏訪梨々香という女性が切り盛りしていると書かれていた。 添えられた写真は在りし日の梨々香の面影を宿している。 15年前、ある出来事をきっかけに、彼女が同棲する部屋から消えてから、梨々香とは連絡が取れていない。 エティエンヌはすぐさま、日本へ行く算段を付けた。 店先に立つ黒いエプロンを身に着けた女性に、ピーエルが声をかける。 「2名で予約を入れたピエールです」 「ようこそ、ピエール様。お待ちしておりました」 黒いエプロンを身に着けた女性が、にこやかに2人を案内する。 店内は古びた本棚と暖かなランプ、手書きの装飾が施された詩集や革張りの小説。 古き良き時代を思わせる木製のどっしりとしたインテリアや、暖かな暖炉。 古書店を思わせる内装の中に、ニースの旧市街を写した写真が飾られていた。 2人が通されたのは窓際の席だ。美しい緑の森がよく見える。 「すてきなインテリア。オーナーの、ですか?」 かつてある事情で学んだ日本語を、エティエンヌは勉強し続けていた。ピエールの助けもあり、それなりに発音も語彙も豊富だと自信がある。 実際、黒エプロンの女性は微笑んで頷いてくれた。 「はい。オーナーのがニースの料理学校で修行をしており、その影響と伺っております」 思い出が胸をよぎった。
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