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登山道に到着し、登り始めて2時間。
山頂に近づくたびに、少しずつ寒さが感じられるようになってきた。
ふと見れば、白い梨々香の首筋に鳥肌が立っている。
咄嗟にエティエンヌは、自分のバッグから防寒着を取り出し、羽織らせた。
「大丈夫かい?」
「ごめんなさい……防寒着を置いてきちゃったの。普段はそんなことないのに」
「確かにね。君は料理の下ごしらえみたいに何でも完璧にやり切るから」
「本当。あなたとデート……あっ」
梨々香の耳が、次第に真っ赤になり、その熱が頬に移っていく。
彼女は目を伏せると、エティエンヌのぬくもりを抱きしめるように防寒着の前を合わせた。
気が付くと、エティエンヌは両手で彼女の顔を包み込んでいた。
「デートってどういう意味?」
「……あなたと、情報交換以外の理由でも会えたってこと」
「それで、用意をおろそかに?」
「そのくらい、嬉しかったのよ!」
短く叫ぶように言った彼女に、エティエンヌはたまらなく美しいものを手の中に閉じ込めた気がした。
「……キスしてもいい?」
梨々香は拒まない。2人の唇が重なり合う。
空がある。海がある。山の上にいる。
2人の体は、熱は、一つに溶けあい、大地にしみ込んでいくようだった。
どれほど素晴らしい時間だったのか。言葉では言い表せない。
2人は夢中で、これからの日々について話し合った。
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