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エティエンヌの思い出を手繰るように、コースが始まった。
栗とフォアグラのテリーヌなどが取り合わされたプレート。
さわやかなユズの酸味がテリーヌの濃厚さによくマッチしている。
続いて、アンチョビやトマトがたっぷりと使われたサラダ。
新鮮なハーブは、この近くの農園で栽培されたものらしい。
さらにトリュフを使ったリゾット。ユズとはまた違う柑橘類が活用されている。
そしてメインは鴨のロースト。こちらには山ブドウと栗のソースが合わされていた。
何から何まで、秋の気配で満ちている。
そして日本とフランスの食材が取り合わされていることに、エティエンヌは気が付いていた。
梨々香の心は今でも、フランスを強く思ってくれているのだ。
「デザートのラベンダーのクリームソーダです。香りをお楽しみください」
テーブルに淡い紫色のソーダと、美しい白のソフトクリームが乗せられたグラスが置かれる。
プロヴァンスのラベンダー畑は、2人のデートスポットの1つだった。ピクニックがてら、お互いに料理を持ち寄っては、飽きることなく話し合った。
最後の一滴までじっくりと食べ終えて、エティエンヌは黒いエプロンの女性に話しかける。
「……シェフの、諏訪梨々香さんと、話すことはできますか?」
「はい。少々、お待ちください」
彼女が立ち去る姿に、
「ああ、なら、少し、タバコを吸ってくるよ」
と、ピエールがウインクをしながらそう言った。
ピエールは、エティエンヌの梨々香の事情を知っている。
チャンスをくれたのだ。
察したエティエンヌは、静かに息を整える。
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