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秋めいた山道の木々は赤く、黄色く、色とりどりに紅葉している。
エティエンヌ・ド・ヴァロアはレンタルカーから降りると、
これから登る山道を見上げた。
長野県の北部に位置する茅野市の中心部から、バスでさらに30分ほど山奥へ。
周囲は紅葉の雰囲気もさることながら、大勢の観光客でにぎわっていた。
エティエンヌは47歳。
いくつものレストランやホテルで活躍してきたシェフだ。
現在はフランス有数の観光地・ニースにある五つ星ホテルで、料理長を務めている。
道を行く観光客たちは、秋めく八ヶ岳の景色だけでなく、
エティエンヌに自然と目をやるものも多かった。
高い鼻梁と整った輪郭に、煌めく深い青の目。
灰色がかった黒髪は短く整えられている。
1日に10時間近く立ち仕事をこなすこともあり、身長180センチ近い体はしなやかで、
機敏な身のこなしをしていた。
料理長という人を率いる立場ゆえか、自然と人を惹きつけるようなカリスマ性が漂っている。
いや。今は、その心が「たった1人の女性」にとらわれているからこそ、人目を引くのかもしれない。
彼は一心不乱に、山道を登り続けていた。
(この先に本当に、梨々香がいるのか……)
今でも信じられない思いがした。
諏訪梨々花。
15年前、突如として彼の前から行方をくらませた恋人の名だ。
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