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26. 大事なこと
「うん? なんだい、大事なことって?」
「最初、ソフィに火を吐いてましたよね? いくら実の叔父とはいえ許せません。きちんと謝ってください」
「え、君、目が本気で怖いんだけど……。レーゼが怒ったときそっくりだな……」
「さあ、叔父上」
にこりと笑って謝罪を促すリュカから物凄い圧を感じて、私まで背筋が伸びてしまう。
竜相手に謝罪を要求するなんて大物すぎないだろうか。
リオネルさんもやや戸惑いながらも、甥の機嫌を取りたいのか、わざわざ私の前に立って謝ってくださった。
「……さっきは攻撃してしまって悪かったね。君が僕の鱗を持っていたから、また密猟者が来たのかと勘違いしてしまったんだ。許してほしいな」
リュカに似た綺麗な顔で小首を傾げて謝られたら、許す以外の選択肢なんてない。
はい、もちろんです、と言いかけて、私ははたと気づいてしまった。
え……鱗? もしかしなくても、私がさっき足を縛られていた紐を切った、あの鉱石っぽい何かのこと……?
恐る恐る手に持っていたそれを見ると、たしかに竜の鱗っぽい形状である。
「竜の鱗って高値で売れるから、密猟者が絶えないんだよねぇ」
たしかに、竜の巣穴で鱗を手にして辺りを物色していたら、竜狙いの密猟者にしか見えないことだろう。これはブレスを吐かれても文句を言えない。自業自得である。
「こちらこそ、申し訳ありません……!」
「まあ、君ならいいよ。それ、欲しかったらあげようか?」
「えっ、そんな──」
「いりません」
そんな貴重なもの頂けません、と遠慮しようとしたところをリュカが食い気味でお断りしてしまった。
「……叔父上の体の一部をソフィにあげるだなんて。俺だってやってないのに……」
「え、竜の鱗をそんな風に言われたのは初めてだよ……。君まさか、その子に自分の髪の毛とか贈るつもりじゃないよね? さすがに怖いよ」
「……そういうつもりではないですけど、ソフィが俺以外の男から何か贈られるのは嫌なんです」
リュカが私からリオネルさんの鱗を取り上げ、不機嫌そうに主張する。もう私よりも年上の大人の男性なのに、そんな子供みたいな我が儘を言うなんて。ついさっき、格好よく私を助けてくれたときとのあまりの違いに、思わず笑ってしまう。
「……ソフィ、笑わないでください」
「だって、リュカが可愛くて」
「また可愛いって言いましたね……」
「可愛いものを可愛いって言って、何が悪いの?」
可愛いと言われるのが不満なリュカをからかって遊んでいると、リオネルさんが何とも言いがたい表情で私たちを見つめていた。
「君たち、付き合いたてでしょ。僕はもう惚気とかいちゃいちゃとかお腹いっぱいだから、続きは帰ってからお願いできるかな」
「す、すみません、人前で……」
今まで自分は常識的な人間だと思っていたけれど、意外と恋で周りが見えなくなるタイプだったりするのだろうか……。これから身を引き締めなければ。そう思っていると、リュカが私の耳元で囁いた。
「では、続きは帰ってからしましょうか」
「……!」
続きとは何なのか……。妙な恥ずかしさで何も言えずにいると、リュカはそんな私を横に抱き、呆れ顔のリオネルさんに別れを告げた。
「叔父上、母の話をありがとうございました。いずれまた」
「僕も甥に会えて楽しかったよ。お嬢さんとお幸せに」
「もちろんです」
リュカの言葉と同時に、あのお馴染みの不思議な浮遊感がやって来て、次の瞬間、私たちは屋敷へと戻ってきたのだった。
ちなみにこの後、リュカは私がからかったことへの意趣返しか、何かにつけて可愛い可愛いと言いながらあちこちにキスをしてきて、恥ずかしすぎて倒れるかと思った。面白がって人をからかいすぎてはいけないな、と私は心から反省した。
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