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1. ある日、少年を拾った
ある雨の夜、薬草摘みの帰り道で、私は子供を拾った。
薄汚れたローブを着こんだ子供は、フードを被っているせいで性別が分からない。雨の中転びでもしたのか泥だらけの姿のまま、雨宿りに丁度よさそうな木の下で膝を抱えて座っていた。
こんな夜に子供が一人で雨に打たれながら座り込んでいるなんて、ただ事ではない。
「あなたは迷子? それとも家出?」
「…………」
しゃがみ込んで尋ねてみるが、子供は答えない。けれど代わりに、ぐーというお腹の音が聞こえた。
私は鞄の中から、おやつに持って来ていて結局食べなかった大きめのクッキーを取り出し、子供に渡す。
クッキーを受け取った子供は少し匂いを嗅いで一口齧った後、食べても問題ないと判断したのかあっという間に平らげてしまった。
「道に迷っちゃったの?」
もう一度尋ねると、今度は少しの沈黙の後で返事が返ってきた。
「…………家から逃げてきました」
家を出てきた、ではなく、逃げてきた。
これはちょっと厄介な事情がありそうだなと思いながら、私は子供に向かって手を伸ばした。
「そっか。とりあえず、行くところがないなら一緒においで」
「でも……」
「雨の中、子供を置いて帰れないよ。ほら、足も怪我してるでしょう。私は薬師だから手当てしてあげる」
そう言って微笑むと、子供はためらいながらも私の手を取ってくれた。
「じゃあ、行こうか。私はソフィよ。あなたのお名前は?」
「俺は……リュカです」
どうやら、この子は男の子だったようだ。男物の着替えは持ってないなぁと思いつつ、私はリュカの手を引き、歩幅を合わせて、森の中の我が家へと向かった。
「さあ、入って。今、火を焚くわね」
「ソフィ……さんは、一人暮らしなんですか?」
「ええ、そう。だから男物の服がなくて申し訳ないんだけど」
「それは気にしませんけど……」
「ならよかった。えっと、お風呂を沸かさないといけないわね」
私は人差し指をくるりと回した。浴室の盥に魔法でお湯を張る。
それを見てリュカが呟くのが聞こえた。
「魔法……」
「少しだけね。魔力は低いけど簡単な生活魔法なら使えるの」
お湯に手をつけて適温になっているのを確認する。
「よし、お風呂ができたから体を洗って。タオルと着替えはそこの棚よ。その泥だらけの服は洗濯するから、そこに置いておいて」
「いえ……ソフィさんが先に……」
リュカは気を遣って私にお風呂を譲ろうとしてくれるが、こんなにずぶ濡れで泥だらけの子供を差し置いて自分が先に入るなんてできるわけがない。
「私よりあなたのほうが酷い有様だし、こういうのは子供が先よ」
「でも……」
「でもでも言わない。そんなに私にお風呂を使わせたいなら、一緒に入っちゃう?」
「……さ、先に入ってきます」
もちろん一緒に入る気なんてないので冗談で言っただけだが、それを聞いてリュカは慌てて浴室へと入っていった。
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