理解者

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理解者

「ただいま」と私が言う。この部屋には誰もいないので、当然その声は正面の壁に当たり、跳ね返って私自身を貫通してゆく。 この部屋には生活に必要な物以外は何も置いていない。我ながら殺風景な部屋だ。 私がまず帰ってする事と言えば、ワンルームの部屋の中にある鏡の前に座り、化粧を落とす事だ。 これは外に出る為に被った「私」と言うガワを脱ぐ為の大事な作業である。 これは必然的に行われるべき事だった。 いつも私を一番見つめているのは、私なのだから。 鏡から離れ、私は興味のある番組など無いのにテレビを付けた。 いつからか覚えていないが、私はいつの間にかこの行動が癖になってしまっているらしい。ライフルーティーンという奴だ。 そして特に笑いどころも泣きどころも無く、真顔で液晶画面を見つめるだけの作業が終わり、私はベッドに向かった。 これが私の普段の生活の中で繰り返される作業だった。 そして私はベットに歩いてゆき、横たわって間もなく、微睡の中に自身を飛び込ませていった。 そうすると一言、「おかえり」と部屋の中に響く声があった。 私は一言、その声に「ただいま」と返す。 その声は跳ね返って私に帰って来ることは無く、私の中に吸い込まれていった。
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