0日目

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0日目

 春、4月、サクラサク、高校入学おめでとう。  春の4月は誰でも、1度は人生の主役になれるシーズンだろう。それが高校に入りたての新入生の1年生なら尚更だ。  そうしてもこれが後、1か月だけ続く、つかの間の春だとしても、僕にはそう何度も訪れない人生の主役のシーズン。いつもより遅咲きの桜が、僕達を祝福する様に咲き誇っている。  そんな舞台の中で。新入生としての当たり障りない僕を演じていた。  いや……演じていたつもりだった。  しかし人生の主役になれるシーズンは、花粉のシーズンである。僕は、すぐに涙目でマスクを常時しつつ、鼻水をかむ普通の一般的な同級生になった。  友達は、苦笑いしつつテイッツシュをくれたりするが、くしゃみをする僕にを明らかに遠巻きに見る同級生も、もちろんいた。  そんな中でも僕は懸命に、青春を謳歌する為に野球部の見学をし、そして野球部に入部すると言う(あお)(はる)に返り咲こうとしていた。  授業が終わり、1階の教室1-3の教室からグランドを見ると今日も晴天の蒼空……花粉が大量に目に見えるようだ。実際クラスメートが、外の生徒と窓を開けて話している今。  くしょうん! くしょん!とマスク越しの花粉によって大量のくしゃみをする。 そうすると、クラスの視線を一身に集める事となった。   それは部活の時間も同じ事、いやもっと最悪で、最近は止まらないくしゃみと鼻水の為、部活は休んで家に帰るのがほとんどだった。 「おい、中井(なかい)、中井! (ひろ)お前、今日も部活休みか?」  俺を呼ぶのは、斎藤(さいとう)文義(ふみよし)野球部は、坊主にするので、皆、顔がだいたい似ている感じなる。でも、こいつだけは一人だけ、中学でもまつ毛が長くてイケメンのリーダーだった。そうして今が、進級してので「イケメンの野球部の新入生見た?」と言われる様になっている。  俺は、だいたいその隣のいつもくしゃみしてる子と、言われて来たちなみに。 「そうだ――もう目が開けられん、もうそろそろ薬がなくなりそうなので、帰ってから耳鼻科行ってくる」  そう言うと文義は、俺の顔を頭の先から、あごまで見て「お大事に」と言うのが、春の恒例だ。そう言えば……文義はいつでも人生の主役だよなぁ……うらやましい。  ちなみに学校のルールでは、下校後は一度、私服に着替えて出掛けるのだ。俺の家は学校の南、そして耳鼻科は、学校を挟んで北で正門の前を通る事になるので、面倒だが一度家に帰り耳鼻科へ向かった。  耳鼻科では、謎の装置のスプレーと吸入器のようなもので、何となく良くなったような気になっている。 そして僕の症状に見かねた先生が、「もう少し強いお薬をだしますね」と言ってくれたので、明日からはもう少しましになる気はする。 そして家に帰る途中に今日4度目の校門を通過するのだ。   しかし校門へ向かう途中に、部室へ向かう同級生を見た。彼ら三人は疲れら様に、だらだらと歩いて、三人の中の一人、山田と目が合い。  山田は、「よう!」と手をあげた。「よう!」俺も同じようにそれを返す。これが生前の彼との、最後の会話になるとは思わなかった。  校門の前を通ると文義(ふみよし)と、何人かの先輩がまだグランドを走っている。その場に居られない俺は腹のそこから湧いてくる怒りに耐えていた。なんで、花粉なんかの為に好きな野球が出来ないのか? 俺はそれでもグラウンドに立つべきなのか?そう思いながら、くしょんくしょんとくしゃみを出す。  「ああぁ……もう……」  そう言うと、俺は通学路の道をふたたび帰るのだった。  自宅に付き、体に付いた花粉を洗い流し、しぶしぶ宿題をやっていると、僕の家に訪問者が訪れたようだった。  母が、「お父さん! お父さんちょっと来て!」と言う声がやけに切羽つまっていたのを今も覚えている。それからしばらくすると、父が一人で二階に上がって来る。 「(ひろ)、ちょっと玄関に、来なさい」父の声は切羽つまっているようにも、落ち着いているようにも聞こえた。 「今、勉強しているから」と言う答えに、「いいから! 早く来なさい」声を少し荒げながら、そう言うので、もう父の後をついて行くしかなかった。階段を下りる途中、父が不意に「学校はどうだ?」聞く。  普段は、母に任せきりそんな事を聞くのは学期末だけの父が、そんな事を聞くなんていよいと何があったんだと勘ぐってしまう。  それでも俺も冷静なふりをして、「いや、別になんで?」と、答えるが父は「そうか……しか答えない」 (なんか、気になるなぁもぉ――!)  玄関の明かりの下、エプロンで涙をぬぐっている母と、2人の不審な男達が居た。年配と若い男性の組み合わせ。重苦しい沈黙に耐え切れず、「あの……父の仕事の?」と、僕を値踏みするように見ていた年配男性にそう尋ねる。  するとテレビで見るだけの上にパカッと開くエンブレムの様なバッチの様な警察手帳を彼は、僕に見せた。正直本物かわからず、父の方を向くとうんうんと、うなずくのでやはり本物なのだろう……。  しかし今度は、ふたたび何故? と言う疑問が頭に浮かぶ。 「県警の青葉と言います。中井浩くんだね。ちょっとそこの車で今日の夕方の話を聞いてもいいかな?」 「あっ……はい、あの何かあったんですか? 耳鼻科に話ですか?」 「まぁ、いろいろとね。じゃ、お父さん、お母さん、息子さんには、少し話を聞くだけだから……」  青葉さんは、やけに丁寧に僕を案内してくれるなと思い外へ出ると、マスクも無しに外へ出たので……くしょん、くしょん! ふたたびクシャミが、出るのだが……驚いた事に若い刑事さんが、僕がクシャミをした瞬間。「おい!」そう言って僕の肩を掴んだ。軽くですぐに、青葉さんがその手を払いのけ「花粉症かい?辛いよね」と優しく言うのだが、僕は「は、はい」しか言えなかった。青葉さんは、ともかく若い刑事さんは、僕を警戒しているのだ。 「あの……僕は、なんかやってしまったのでしょうか?」    背中を丸め、そう聞く僕に彼らは今度、何も答えなかった。そして僕は、なんと言われても彼らの言う事を信用出来なかっただろう。そして白い普通の車に乗せられ、若い刑事さんが横に乗ろうとするのを、青葉さんが制止、彼だけが僕の横に乗り込み、若い刑事は運転席へと座った。 「中井君、どうせ明日になればわかる事だがある程度正直に言うが、学校の野球部の部室で、死亡者が3名出たんだ。それについて何か知らないかと思い、昨日あの辺りにいた生徒や彼らの仲の良かった生徒さんに、聞いて回っているだけなんだ」 「それは誰か聞いていいですか?」 「すまない、警察も守秘義務あって簡単に話すわけにはいかないんだ」  青葉さんは、困った様に笑い、すまなそうにそう言う。でも、1つだけ僕には聞きたい事があった。  「すみません1つだけ! 死んだのは文義(ふみよし)じゃないですよね? 斎藤文義! あいつは小さい頃からの友達なんです……同じ部活で薄情かもしれませんが、やっぱりあいつだけは死んでほしくないんです……」 「大丈夫、彼は生きているよ、精神的に少し疲れてしまう事もあるかもしれないが、君が力づけてやってよ」  そう言って、手を前で握りしめ下を向いている、僕の肩を励ますように軽く叩く。僕は、安堵感から目ををつぶり大きく息を吐く。 「ありがとうございます」  絞りだす様に出した青葉さんへのお礼の言葉は、いつもの僕の声とは違って響く。 「じゃ……中井くん今日の事を、話して貰っていいかな?」そう言われ話し始める。  「僕は、今日も部活を休み、耳鼻科をへ行きました。診察が終わって帰った時間は、耳鼻科に…………そう言えば、レシートを探せば、帰った時間がわかるかもしれません。耳鼻科から帰る途中に、そう言えば野球部の部室の前を、通りました。三名の同級生の内、山田が、俺に気付いて『よう!』と言ったので僕も同じ様に『よう!』と返しました。そして――」  「山田君達の後ろには、怪しい人物とかは、居なかったかな?」 「えっ……山田?……うーん部室は、学校へ行ったらわかるんですが、入り口がグラウンド側にあって……部室の入り口側に誰か居た場合、道路の方からは見えないのでわかりません。それから正面玄関を通ったのですが、先輩や文義も自主練してたけど……そこには怪しい人はいませんでした。道路には、何人も人が居ました中に入って行く人は見ませんでした。あの……山田も大丈夫なんですよね?」 「うーん、君は、少し疲れている様だから今日は、休んだ方がいい。続きは、もしかしたら明日聞くかもしれない。思い出した事が、あればこれ、名刺だ。ここに電話すれば誰か私に、伝えてくれる事になっているんだ。いつでも、電話してくれ」 「山田君も、今回の犠牲者の一人ですよ、中井君。そして幸山(さちやま)君、山頭(やまがしら)君。彼らが今回の被害者です。」 「おい! 久山(ひさやま)! お前いい加減にしろよ?!」青葉さんは、前の椅子を両手でがっちりと掴み、吠え掛かるように若い刑事に言うが、彼は車のハンドルを支えに僕だけを見て僕だけに話をつづける。 「今日、他に不審な人物は見なかったのか?、そして彼らが揉めているって話を聞いてない?」 「もう、答えなくていいから、中井君! さぁ家に帰ろう……」    青葉さんは、僕を車から連れ出すと、僕を家まで送り届ける。玄関を開けると父と母が、寒いだろうにそこで待っていた。 「中井君こんな時間まで、ごめんな」青葉さんは、そう言い玄関から帰って行く。  母は、僕の背中をさすり……。父は「今日のご飯は、麻婆豆腐だったぞ」と僕を元気づけようとしているのがバレバレだった。  でも僕が、「父さん、近い内に僕は同級生の葬儀へ行くと思う」と言うと、思い沈黙が辺りを包んだ。          つづく  
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