刑事たち

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「日曜の朝からひたすら穴掘りかあ。あーあ、やってらんねえ。  しかも、わざわざ東京から神奈川に赴く羽目になるなんて」 「おい田口(たぐち)、無駄口叩いてないで作業に集中しろ」 「あ、雪郷(ゆきさと)さん」 「ったく、休日が潰れたぐらいでグチグチ言いやがって。  これだから最近の若い奴は」 「へいへい」 「なんだ、その返事は。口先だけで返事しやがって。  それにお前、やってるフリで時間を稼ごうとしてるだろ。  俺には分かってるんだからな」 「あー、バレてましたか」 「俺の前ではそんな誤魔化しは通用しないからな」 「うへえ……」 少しでも楽をしたい気持ちは山々だったが、この様子だと手抜きは出来ないようだ。 ベテラン刑事の雪郷(ゆきさと)さんに睨まれながら、スコップで土を掘り起こす。 うっかり遺体が出てきて傷付けてはいけないから、慎重に。 「はあ……疲れる」 ため息混じりに呟く。 梅田範人の供述が曖昧である為、上木真緒那が埋められた場所がはっきりしてないのだ。 捜査員たちがそれなりに当たりをつけて複数箇所を掘り起こしているのだが、今のところ発見には至ってない。 「さっさと誰か見つけてくれないかなあ。早く帰ってゲームしたい」 「田口、お前は黙って作業するってことが出来ないのか」 「だって、朝からずっとこの穴掘りっすよ。もう何時間やってることやら」 「下手すりゃあ、明日も続くんだぞ。この作業が」 「うへえ……」 「それが嫌ならもっと集中しろ。少しは山井(やまい)の奴を見習ったらどうだ」 そう言って雪郷さんは、少し離れた所で穴を掘っている別の刑事の方を指し示した。 「山井(やまい)さん、ですか」 彼は俺より一回り年上の先輩刑事だ。 俺とは正反対で、無口で生真面目な人である。 今日も、愚痴も文句も言わずに一心不乱に作業を進めているようだった。 あの人の大きな背中はいつ見ても頼もしい。 「見ろ、ずっとあの調子だ」 「さすがですね」 「家族が大変な時だってのに、ちゃんと仕事に集中する……  刑事の鑑のような奴だよ」 「家族が大変な時って?」 「あいつの嫁さん、病気で入院中なんだよ。ちょっと重いやつらしくてな。  ここ数日が峠だって話だ」 「え? 仕事なんかしてる場合じゃないでしょ!」 「どんな時でも職務が優先される。それが俺たちの仕事だ」 「そんな……」 「だから、山井の奴はああやって穴掘りに集中してんだよ。  さっさと事件を片付けて嫁さんのところに行く為にな」 「……」 「分かったらお前も集中して作業しろ」 「はい」
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