刑事たち

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雪郷さんに言われて、俺は再び穴を掘る作業に専念した。 しかし、状況に進展が無いまま時間だけが過ぎる。 日も傾いてきた。 このまま日が暮れてしまうと、捜査は一旦中断となるだろう。 そうなると、明日も引き続きこの作業をすることになる。 (それじゃあ山井さんが気の毒だなあ。一刻も早く病院に行きたいだろうに) そんなことを思いながらスコップを突き立てた。 既に深さ2メートル以上は掘った穴の底に。 「ん?」 スコップの先端が、何か硬いものにぶつかる感触がした。 何かを察して、スコップを引き抜き手で土を除けていく。 「田口、何か見つけたのか」 「はい。多分」 雪郷さんがやって来て、俺が掘り起こした穴の中を覗き込む。 「これは……」 雪郷さんの顔が強張った。俺もまた同じ表情だっただろう。 そこには人骨があったのだ。 白骨化した頭蓋骨がこちらを見ていた。 「まさか、これが上木真緒那ってわけじゃないですよね」 「当たり前だろ。奴が彼女を山に埋めたのは1週間前だ。  1週間でこうはならねえよ」 「ですよね」 「こんな綺麗に白骨化してるってことは、  ざっと考えて7年以上は経ってるだろうな」 「じゃあ、今回とは別の事件の被害者ってことですか」 「まあ、そうだろう」 「俺、やっぱり第一発見者ってことになりますかね」 「そりゃそうだろ」 「うわあ……面倒くさ」 「まあ頑張れ。神奈川県警との話し合いが終わったらコーヒーぐらい奢ってやる」 「晩飯も奢ってほしいっす」 「調子に乗るんじゃねえ」 そんなやり取りをしつつ、より慎重に土を取り除く。 その時、不意に背後から大きな声が響いた。 「遺体発見、遺体発見!」 山井さんの声だった。 慌てて振り返る。 山井さんの周りに、捜査員たちが集まってきていた。 骨の回収を雪郷さんに任せて、俺もその方へ駆け寄る。 「う……」 そこには腐乱した女性の遺体があった。 皮膚は爛れ、顔の肉は一部が溶け落ちている。 生前の美しさは見る影もない状態だった。 だが、衣服や一緒に埋められていた運転免許証・携帯端末などから上木真緒那に間違いないと判断された。 かくして目的は達成されたわけだが、俺を含めて捜査員たちの顔つきは固いものだった。 どんなに順調に事が進んでも、決して笑顔がもたらされるわけではない。 そういう仕事なんだ、と改めて思い知らされた。 その後、上木真緒那の遺体は回収されて、司法解剖に回されることになった。 死因や殺害された時の状況などが、より正確に判明することだろう。 仕事を終えた仲間たちは続々と東京に引き上げて行く。 一方俺は、新たに発見してしまった人骨の件で、もうしばらく神奈川県に留まることになった。 この事件は神奈川県警の管轄になる。 俺には、第一発見者として事情聴取に応じる役割が残っていた。
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