刑事たち

4/4
前へ
/4ページ
次へ
「ああああ、疲れたあ」 自分のデスクで伸びをする。 東京の本部に戻ってからも、梅田範人への更なる取調べや報告書の作成などで忙しかった。 ようやく一息ついた頃、時計の針は夜の12時を超えていた。 疲れからか、大きなあくびをしてしまう。 その時、俺の目の前に一本の缶コーヒーが置かれた。 「よう、お疲れ」 「雪郷さん」 「約束通り、これは俺の奢りだ」 「あ、ありがとうございます」 雪郷さんから貰ったコーヒーを遠慮なく飲む。 ミルク入りの甘いやつだった。疲れた体と頭に心地いい。 このおっさん、気が利くこともあるんだなあ。 「神奈川県警との話し合いはどうだった?」 「どうもこうも、見たままを話しただけっすよ」 「まあ、そうなるよな」 「向こうさん、これから骨の身元確認をしたり、過去の事件との照合をしたりで  忙しくなるでしょうね」 「そうだな。まあ、それはあっちの問題だ。  俺たちとしては上木真緒那の遺体を回収できればそれで良い。  後は野となれ山となれだ」 「ですね」 雪郷さんの言葉に頷きつつ、コーヒーを啜る。 「それにしても、上木真緒那の遺体を捜しに行って、  別の人間の骨を掘り起こすことになるなんて夢にも思いませんでしたよ」 「そうだなあ。だが、山なり海なりに捨てられて発見されてない遺体なんて  まだまだ山ほどあるんだろうな」 「発見されなければ事件にすらなりませんからね。  今回はたまたま運が良かった……のか、悪かったのか」 「仏さんにとっては良かったんだろ。  とは言え、こんなのは氷山の一角に過ぎないんだろうが」 「そう思うと気が滅入りますね」 「そういう仕事だよ。お前はまだ若いから分からんだろうが、  これからもっと嫌なものを見ることになるぞ」 「うへえ……勘弁して下さいよ」 「まあ、お前は正義感に溢れてるタイプの人間じゃないから、  案外上手くやっていけるかもな」 「それ、褒めてるんですか?」 「さあな」 そう言って雪郷さんは笑った。 俺は残っていたコーヒーを一気に飲み干した。 「ところで、山井さんは?」 辺りを見回しながら雪郷さんに問う。 こんな時間だが、事務所ではそこそこの数の刑事たちが右往左往していた。 だが、その中に山井さんの姿は見当たらなかった。 俺が本部に戻ってから一度も彼の姿を見てなかったので少し気になっていたのだ。 すると、雪郷さんは少し俯き加減になった。 「あいつなら病院に行ったよ。嫁さんの件で、向こうから連絡があってな」 「それって……」 「ああ」 嫌な予感が背中を走る。 そんな俺に向かって、顔を上げた雪郷さんがニンマリと笑って見せた。 「あいつの嫁さん、無事に峠を越したってよ」 (終)
/4ページ

最初のコメントを投稿しよう!

4人が本棚に入れています
本棚に追加