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とにかく事務官は、騎士らの補佐をするのが仕事。広義に解釈すれば、オリベルの着替えも事務官の仕事ととらえても問題ないのだが、それを大々的に認めてしまうと、第一騎士団に所属する彼らの貞操が危ぶまれる。
「細かいことは気にせずに、お休みください」
ラウニはもう一度横になるようにと、オリベルを促した。
オリベルが静かに眠る様子を、ラウニはほっとした気持ちで見つめていた。
数時間前の苦しそうな表情は嘘のように穏やかなものにかわっている。それでもまだ熱は高いのだろう。
額にのせた濡れた手巾は、すっかり生ぬるくなっていた。それを冷たい水につけて、きつくしぼり、もう一度彼の額にあてる。
気持ちがよいのか、目尻がふとゆるんだように見えた。
オリベルはきっと覚えていないだろう。初めて二人が出会った日のことを。
それはまだラウニがただの商人の娘だった頃――。
父親に連れられてニッカネ商会を訪れた。
そこにオリベルがいたのだ。養子であり商会長と血の繋がりはないと聞いてはいたけれど、彼は義両親の仕事の手伝いを黙々とこなしていた。
そしてそんな彼を優しい眼差しで見つめる商会長夫妻。
血の繋がりとは異なる繋がりが、この家族にあるんだろうなと、ラウニは感じた。
奥の部屋から赤ん坊の泣き声が聞こえ出すと、すぐさまオリベルが生まれたばかりの赤ん坊を抱っこして連れてきた。
『かわいい』
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