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ピーチ
「ダーリンの部屋ならタダでゆっくり寝られるでしょ?」
ピーチ姫はボクに抱きついてきた。
「……」
コンビニの店員がチラチラこっちを伺っていた。他の客たちも関心はあるのに見て見ぬ振りだ。
「いやいやァ、ちょっとヤバいですって。ボクはひとり暮らしなんですよ」
いきなり売れっ子キャバ嬢の正義の味方と二人で同居なんて、いくらなんでも世間体が悪いだろう。
「じゃァちょうど良いわァ。当分、引っ越しが決まるまでよろしくねえェ。タダで!」
「いやいやァ、全然、よろしくないですよ!」
ボクは抵抗するが相手は美少女でも正義の味方だ。腕力では、とうてい叶わない。
いくらピーチ姫が怪人よりは弱くてもボクみたいな一般人とは比較にならないのだ。
「ううゥン、ダーリン。寝不足気味だからあまり激しくしないでね」
恋人のように馴れ馴れしく腕を組んで、とんでもない事を言った。
他の客たちは聞き耳を立てていた。
「な、なにを激しくするんですか。誤解を招くような事は言わないでください」
とっさに辺りを見回した。他の客たちは視線を逸らし素知らぬ振りだ。
「フフッ」ピーチ姫はイタズラ好きな小悪魔みたいに微笑んだ。
「いやァ、ちょっと店員さんが見てますから離れてください」
ボクは店員の目が怖い。
他の客たちも遠くからモノ珍しそうにボクたちを眺めていた。
「じゃァダーリン。ハーゲンダッツのアイスクリーム買ってくれる?」
「はァ、ハイ。なんでも買いますから」
仕方がない。一刻も早くこの場を立ち去りたい。
売れっ子キャバ嬢の正義の味方にボクみたいな草食系男子が叶うはずがない。
こうして彼女はボクの家へ転がり込んできた。
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