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空を見上げた。雲が多い。今夜は満月で夜道が良く見えると思っていたけれど、雲のせいか、ただうっすらとした闇が広がるばかりだ。
――こんなはずではなかった。
心の中に、もう何度呟いたかわからない言葉が浮かぶ。身体が震える。それが暗闇に対する恐怖であればどんなによかったか。昨日までの、ただ暗闇に怯えていればよかった現実に戻りたい。けれど、戻れないのだ。予定が狂ったその瞬間から、全てが非現実的で不確かなものに思えて気持ちが焦った。ぐっと拳に力を入れる。先ほどの感触がまだ手に残っている気がして深呼吸を繰り返した。
時間は戻らない。俺は、前に進むしかない。
自分に言い聞かせるように、暗闇の中また一歩を踏み出す。誰かの足音がしたような気がして、慌てて辺りを見回した。誰もいない。そう見える。本当に? わからない。
軽く頭を振った。混乱した頭を白紙に戻したかった。白紙に戻るわけもないと知っているのに。戻れないのだと繰り返している心との矛盾に、ふっと頬が緩んだ。いくらか落ち着きを取り戻せたような気がして、小さく息を吐く。
後戻りはできない。それが、今分かっているたったひとつの道標。
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