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禽獣の里のどこへ行っても日和見主義、お天気や、風見鶏と親しまれている鼻つまみ者、それが彼だった。
彼はもう、ここにはおれはすまい、と何となく、その真黒い肌で感じた。太陽が隠れた、誰しもが憂鬱な曇った夕方のことだった。
曰く人里という、禽獣たちよりも数歩進んだ文明の所があるらしい。兎達がそう言っていた。「足、速いのかな」「ああそうともさ。何せ、足が一メートル以上ある」カッ、ペッだ。全く。こんな語尾の効果音から分かる通り、彼はほとほと、本当に嫌気がさしていた。本当にだ。魔がさした、の言い間違いではない。これは少し上手いな、と思って、彼は少し笑った。
そうだ、そこへ行こう。羽をはためかせるのに、さほど決心は必要なかった。
彼らはなんと、禽獣たちをカッ捌いて、その肉を食らう生き物だという。上手く取り入っている者もいるようだが、自分はまあそうはなれないだろう、と彼は、自分の容姿を思った。愛玩されるようなチャーミングさは、彼からはおそらく、最も遠い場所にあった。
(まあ、醜いがゆえに、すぐさま取って食われるというのも考えにくい。喜んでいいのか、悪いのか)
ヒトが築いたと思しき国境の壁。その遥かな石の建造物に身を預けながら、うとうと微睡む。
(こんなものを造れる力があるとは。やはり、結構な進み具合の生物らしい)
遠くに目を遣る。禽獣たちの暮らす里が米粒のように見えて、多少気分が良くなった。
「それにしても、いやあ、……高い」
自分が日頃飛んでいるのより高い所に、今、彼は羽を休めていた。慣れない高さに目が眩む。
「おっと」
ぐらついた身体を、何者かの手が支えた。
彼の胴の四半分ほどしかない、ちいさい、五本の指の手だった。
「……人間」
「やあ」
黒い、レオタードのようにぴっちりした服を着た男が、いつの間にか隣に立っていた。
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