『蝙蝠の羽』

10/10
前へ
/10ページ
次へ
       ◇  地に伏す、一人と一匹の亡骸。  衝突音にびっくりして逃げ去った子供たちが、恐る恐るといったていで戻ってくる。  そして彼らは見た。  血に塗れた枯れ草の地面から、ゆらり、と「人」が起き上がるのを。  球蹴り遊びのボールが、子供の手から落ちる。震える指が、立ち上がった青年に向けられた。  青年は、一対の――蝙蝠の羽を、背に持っていた。  大きな羽が、ひとりでに動き、青年の身体を包む。愛するひとの抱擁を受けるように、青年は幸福そうな顔をしていた。  羽を広げ、飛び立つ。森の木々が、喝采に似たリズムで揺れた。  青年の姿がその地平から見えなくなるのに、そう、時間はかからなかった。 〈了〉
/10ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加