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「……分からないよりは、良いんじゃないか」
羽の先が夜風に揺れる。冷たい風だった。
「ここは高い所だから、風も一際冷たいんだよ」男は言った。
「皆そこにいるかは分かんないけど、ね、僕らと同じコがいるとしたら、きっとさ、――おんなじ、気持ちだよ」
寒いんだ。
枯れ葉がどこからか飛んできて、男の顔に当たった。
「あはは」笑う。「もう喋んなってさ。お喋りだから、僕」
あはは、あはは、と繰り返し、笑う。
「要らないことばっか、だってさ。いっつも、いっつも。そう言われてもさあ」
男は彼を見る。「笑うなって? 分かったよ」そう言い、口を噤む。にへら、と口元だけが、疲れたように、緩む。
「寂しいよ。僕自身のこと、言われているみたいでさ」
彼は何も言わず、黙って羽を広げた。
「包まって良いの? ……ありがとう」男はきょとんとして、のろのろと傍らに身を寄せる。苦笑。
「お人好しだね、キミって。なのに、どうしてもてないのかな?」
「! ……」
「これは、読心術じゃないよ。悪名高いもの、こんな所にまで、届いてくる位に」
「日和見主義、お天気や、風見鶏、とか」
「うん。おウワサは、かねがね」男はわざとらしく、マジメくさった顔でウンウンと頷いた。「そうだねえ。キミは正に、そういった感じだもん」
「……羽をどけても良いか」
「やめてよ〜ん。僕の毛布。取らないでぇ」
ふざけ調子が延々と続きそうな予感がして、彼はそっと息を吐いた。なるほど確かに、手に負えないお調子者だ。
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