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「……あんまり、上手くないな」
「そう」軽く返し、男は胸に手を当てる。白い息が、その口から洩れた。季節は確実に、薄暗い冬へと近づきつつある。
「今教えたのはね、僕のとっておきさ。みんなが混ぜてくれないとき、僕はいつも、これを心の中で唱えてた」舌先を出す。「苺ジャム、僕大好きだったから、ホントは嫌な例えだけどね。そうでもしないと、……本当に」
顔を大きい手で覆う。すう、はあ、と数回、深呼吸。――覆いを外し、笑顔を彼に見せる。
「毛布をちょうだい。キミの羽、今まで毎晩包まってたおばあちゃんのブランケットよりも、ずっと温かいや」
「……それで、お前さんは落ち着くのかい」
「安心する」すん、と洟をすする音。再び差し出された羽を、しっかりとつかむ。
「おばあちゃんね、もう、死んじゃったの。ちゃらんぽらんな僕の話をまともにとりあってくれるのは、いつも、僕のおばあちゃんだけだった」
キミは言うなれば、お喋りつき毛布ってトコだね。
屈託のない笑みと共に、男は冗談を飛ばした。
「……そうか」
「そんな卑屈にならないでよ」羽を強く、つん、と突つく。
「『こんなおれに生きる価値が』なんて、ヒクツすぎるよ。病気になっちゃう」微笑む。
「お前さんよりはマシだ」彼は応えた。「こんな所に登ってくるなんて」
男の微笑みは動かなかった。
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