『蝙蝠の羽』

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 彼は数秒考え込んだ。 「ひと一人乗せて、飛ぶのは初めてだ。いつも、孤独に低いところを飛んでいたから」 「そっか」男は笑った。「最初で最後になりそうだね」 「ああ」彼も笑う。 「最後に、似た者同士温め合えるのなら、どっちつかずで生まれたこの身体も、さして悪くない」  彼の背に、体重がかかる。自分も温かいじゃないか、と、彼は男に対して思った。 「自分の温かさでは、足りんのか」 「足りないよ。全然」  静かに言う。 「もう死んでしまったおばあちゃんのブランケット以外に、何か依れるものが、何かあればと、――ずっとそう、思っていた」  ヒトの築いた高い壁から、ゆっくりと離陸する。浮遊感。「わあ、飛んでる。夢みたいだ」男のはしゃいだような声はすぐに、――落胆のそれに変わった。  重力の押さえつける力に、彼らは抗えなかったのだ。
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