死体遺棄妻VS絶対死体遺棄させない神

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 彼女は反射的に頭を上げる。まさか、誰かに後をつけられていた? そんなはずはない。来る途中何度か立ち止まって十分警戒したし、この場に来てからも物音にはずっと注意を払っていた。だから接近してくる人間がいれば、気づかないはずがない。  なのに、なぜ――そんな彼女の疑問は、すぐ解決した。  わかってみれば簡単な話だ――声の主は、人間ではなかった。生物ですらなかった。  彼女の目の前に立っていたのは虚空にうごめく、純然たる闇の塊だった。 「わかるやろ? 山に埋めてええんは、山の生き物だけ。そういうルールやねん、な?」  強制的に理解させられた。あれは人の常識の埒外にあるもの――超常的で、超越的な、なにか。ちっぽけな人間にすぎない彼女など、芥子粒ほどの害を及ぼすことも叶わぬ代物。  だけど、彼女だって退くわけにはいかない。ガチガチ鳴る歯の根を食いしばり、いなす。ぐっと丹田に力を入れてから、上目遣いで喉の裏側から甲高い声を出した。 「すいません、知らなかったもので……あのう、ところで、どちらさまで……?」 「ああ、こりゃ名乗るんが遅れてすまなんだなぁ」  コホン、と咳払いをしたかのごとく、墨を宙に零したようなその表面が大きく波打った。 「シタナイ神で、ええで」 「シタナイ、シンさん……不思議なお名前ですけど、なにか由来でも?」 「ああ、なんつうかまぁ、本名が意味するところの略称よ」  闇――シタナイ神は池に大石を落としたような波紋を揺らめかせた。 「〝絶対死体遺棄させない神〟――まんまやろ? もうちょい捻れってウチのオカンに言うたってくれや、なぁ」
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