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シタナイ神は気楽に言う。ふと違和感があって、彼女はよく耳を傾けた。
謎の闇からするその声は、最近ブレイクしてメディアに出ずっぱりのピン芸人……とてもこの場にいるはずのない人間の声だった。
「おお、カンがええなあジブン」
シタナイ神は感心したように言う。
「そう、ジブンの記憶の中にある、一番害のない音声を再生して、ワシの言うことがわかるようにしとるっちゅうこっちゃ。ワシらの言葉は、ジブンらには直接理解できんからなぁ。たまにラグで雑音混じるかもしれんけど、ごめんやで」
確かに、と彼女はどこか納得する。シタナイ神の言葉は肉声というより、低質録音した音声のようなチープさで、脳にそのまま響いてくる。
そし(プツッ)て、音と認識する間に感じる、なにか柄もいわれぬギャップ――だがそれは向こうが言うような雑音というよりは、彼女の脳みそのごくか細い神経がプツリと千切れて発生するひずみ、そんなようだった。
異常を裏付けるように、彼女の鼻から血が一筋垂れる。この状態が続けば、ただでは済まない――彼女がそう悟ったのを見透かして、シタナイ神は言った。
「わかったら、それ持って早よお帰り。今なら、なんもなかったことにしたるから」
彼女はコンテナに添えたままだった手を、ビクつかせた。だがその瞬間、目の前の異形に引き起こされた恐怖は、憤怒へと反転する。
なんもなかったことにしてやる――?
ふざけるな、そうするのはお前じゃなくて私だ。
このコンテナに入っている夫をここに埋めて、なにもかもなかったことにする――そのために死ぬ気で練り上げた計画は、あと少しで完遂される。
それを邪魔するならば、例え神様だろうが容赦しない。
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