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彼女は恥も外聞もな(プツッ)く、ぶりっ子な態度ですり寄った。
「私、まだまだ勉強が足りなくて……シタナイ神さんは、このあたりの土地神様ですかぁ?」
「ああ、そんなん、全然! ワシなんて生まれたばかりの若輩モンよ」
シタナイ神は身体の中心を大きくへこませてから、パチンコのように弾かせた。生臭いうえに妙にぬくもった突風が、ぶぉおん、と辺りを吹きぬける。直撃した彼女の全身に、静電気が駆けるような嫌悪が走った。
ため息だろうか。ゲップだったら……いや、考えるのはよそう。
「日本は昔から山の国で、」
シタナイ神はピン芸人の声で続ける。
「その土地土地でいのちの均衡が保たれとった。せやけど、ここ数十年でジブンら人間がごっつ増えたやろ? それだけならまだしも、ケガレた死体を所かまわず山に放りよる。肉は山の生物を不要に肥え殖えさせ、ケガレは降り積もり陰の気が強くなる。
もう、どこのお山もバランス崩れて、しっちゃかめっちゃかなんよ。それで、ワシらみたいなんが生み落とされて、これ以上悪化せんよう巡回して回ってるっちゅうこっちゃ」
「そんな大問題になってたんですね……それなのに私ったら、反省です」
「ええってええって、わかってくれたらそれで。ほんなら、それ、持って帰り? ふもとまで送ったるわ」
「そうですね――」
彼女はシタナイ神に背を向け、コンテナの前にしゃがみ込む。そして両脇から抱え込むフリをして、左手の袖口から祓い塩の袋を取り出す。中身を右手に握りしめ、素早く立ち上がりながら腕を振り上げる。
そして山神に向かって勢いよく投げつけようとして――
「そうそう、これも忘れたらアカンで」
全身が硬直した。
シタナイ神の傍らに、黒い色の大型プラスチックケースが二つ、詰み上がっている――それは彼女がここへ持ち込んだものと同型で、土に汚れていて――死臭が、漏れ出していて、
「なんで……? なんで、それがここにあんの……?」
茫然と呟くしかない彼女に、シタナイ神は気前よく答えた。
「ああ、ワシらシタナイ神にはシタナイ神ネットワーク、通称SSNっちゅうのがあってな。ま、別のお山と森羅万象融通できる無敵テレポーテーションみたいに思うてくれたらええわ」
「へぇー……そうなんだ……」
「や、そない大したことやあらへんで? ワシら生まれてここ数年やし、このくらいのことしかできんけど、やっぱ上のレジェンドたちの権能は一味も二味も違うっちゅうか……」
「誰も褒めてないわよ、この思いつきみたいなポッと出ドマイナー神が!!」
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