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たまたまだ、という思いとは裏腹に、足は迅速に動いた。気づかれないよう後を追って……辿り着いた先は、ラブホテル。一度じゃないよ? 二度、三度、四度――両手でも数えきれないくらい。
写真は撮った。興信所に依頼して、裏取りも取った。夫婦間の夜の営みは、もう長いことなかった。子どもを、なかなか授からなかったから。
検査をして彼女の身体に問題はないことがはっきりしたけど、何度頼んでも彼は検査を受けようとせず、次第に仕事で疲れているからと遠ざけられるようになって。
(プツッ)(プツッ)離婚を切り出せばいいのもわかっていた。だけど、それでこの心の傷が癒せるだなんて到底思えなかった。
報いはちゃんと受けないと、ね、あなた?
彼の愛飲するミネラルウォーターのボトルに睡眠薬を入れて。
首を絞めて息の根を止めて。
死体から血が出ないよう硬直が始まるのを待って。
電動のこぎりで切り分けて。
胴体、頭と両腕、両足、それぞれ三つのコンテナに分けて。
目星をつけておいた別々の山の中で、あらかじめ掘っておいた穴に埋めて。
どんな状況でも対処できるように、万全の準備をして。
こんな面倒なことをしてでもあなたを殺さないと、もう、どうしようもなかったの。
(プツッ)(プツッ)(プツッ)それほどあなたを、愛してた。
「そうかそうか……そりゃ、辛かったな」
うん……でも、だけど、いいの。どうせぜんぶ、夢だから。
夢だって、単なる悪夢だってわかって、ホッとしてるの。
だって彼の首を絞めたとき。肉を、骨を、切ったとき。土の下に埋めたとき。私ね、ざまみろって思いながら、なんだかとても、泣きたくなった。
――私たちホントに、こんな終わり方しかできなかったのかな。
やらない後悔よりやる後悔って言うよね。でも、やる後悔はもう、取返しがつかないんだ。
そんな当たり前のこと、今になってやっと気づいたの。
だから――目が覚めたら、彼にちゃんと言おう。愛してるよって。私も子どもが欲しくて、無理強いしてたかもって、やっと気づいた。だからきちんと謝って、もう一回、ちゃんと話し合おう。
だから――だから――
「そうか……ほんなら好きなだけ、そうしたらええ」
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