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02. 八雲の紋章
俺は金髪碧眼ツインテ少女たちに拘束されてから、
要塞っぽい建物の一室に連れ込まれた。
そこには、銀髪ショートの白衣を着た女性が待ち構えていた。
取り調べをする係の人だろうか。
「、、、おーまいごっと」
思わず口から漏れる。
彼女は『1000年に一度』と言っても過言ではないほど美しかった。
シルクのような質感のホワイトブロンドは肩まで伸びており、緩やかにウェーブがかかっている。
彼女の瞳はアメジストが埋め込まれたかごとく、涼しげなすみれ色の光を放つ。
黒を基調としたワンピースの上に白衣をはおっており、大人らしさと知的な雰囲気をまとっている。
俺は、蛇に睨まれた蛙のように動けなくなっていた。
俺は顔面が良い女性に弱いのだ。
「あーーー、ワタシ、キオクソシツ、トテモ、コマッテイマス。タスケテクダサイ。」
何故カタコトでしゃべった。どうせ通じないだろ。
彼女はやれやれと言わんばかりに肩をすくめた。そして、自身を指さしながら「ソフィア」と言った。
さすがに自己紹介だということは分かった。彼女と同じように自身を指さし「八雲」と名乗った。
それからなんやかんや、日本円の入った財布を見せ、現地通貨がないアピールをしたり、渡された紙に絵を描きながら、記憶がないことを説明した。
伝わっているかは自信がないが、、、彼女は静かに俺の説明を聞いている。
~~~(ソフィア視点)~~~
ソフィアと八雲は砦の研究室にいた。
"カリカリカリカリ"――ペンが紙の上を走る音が静かに響く。
ソフィアはこの「高山都市スタットベルグ」のトップ、ヘルマン元帥への報告書を書きながら、思考を整理していた。八雲には待機してもらっている。彼は落ち着かない様子で、時折周囲を見回している。
黒髪黒目の外見、見たこともない異国情緒溢れる服装、通貨、文字、どれもソフィアにとって理解しかねるものばかりで、大変好奇心がそそられた。
聞きたいことは無限に出てくるのだが、彼の処遇を決めるための情報を最優先で確認した。
言語が通じないので、ジェスチャーや絵を用いて筆談した。
名前はヤクモ サカキ、20歳、職業はおそらく学者、出身地はニホン、記憶障害があるようで、スタットベルグにいる目的は不明。
困ったことに、彼自身が何故、どのようにスタットベルグに来たのか理解していないようだ。
『目覚めたら記憶を失ってスタットベルグにいた。』彼のそこそこ上手い絵からはそう読み取れた。
「・・・本当に厄介な存在だな、キミは」
ソフィアは大きくため息をついて、八雲の左手を見つめる。
そこには、雲のような形をした不思議な紋様が浮かび上がっている。
紋章--- それは神から祝福を受けた者の徴(しるし)。
紋章保持者は『紋章術』と呼ばれる方法で、神の権能を顕現させ、超常的な能力を操る。
紋章は授けている神の神格により出力が異なる。
神格は大きく3段階に区分され、『地神』、『霊神』、『皇神』の順に高い神格を持つ。
最も数が多く、神格の低い地神の紋章保持者でさえ、常人の数倍の膂力を持ち、一般兵では全く太刀打ちできないレベルの戦闘力を持つ。
地神の紋章の特徴は『動植物』を抽象化した紋章を持つ。
八雲が持つ紋章は『雲紋』、つまり八雲の神は少なくとも『霊神』以上。
ソフィアの見立てでは、八雲は天候を司る神『嵐神』の加護を受けている。
聞いた話だが、『皇神』の紋章を持つ『太陽王』はその神威で、山一つを更地したと聞き及んでいる。
もし八雲にもそのような力があるのであれば・・・。いや、その可能性を持っているだけでも、軍の上層部は八雲を危険と考えるかもしれない。
よって、八雲の戦闘能力を図ることはソフィアにとって重要課題だった。
ただ、驚くことに、八雲は紋章に関しても何も知識がない様子だった。
八雲のお絵描き説明では、そもそもニホンでは紋章が存在しておらず、スタットベルグで目覚めた際に紋章を得ていたと言う。
記憶障害で紋章について忘れてしまっている可能性があるが。
一旦、大まかな状況整理はできた。
ソフィアは八雲を『保護』すべきという方向性で、報告書を書き上げた。
ふと、八雲のほうを見やる。
彼は頻繁に態勢を変え、周囲をキョロキョロしている。
不安なんだろう。ソフィアには彼が少し可哀そうに思えた。
「安心したまえ、八雲クン。ボクが何とかしてあげよう。」
ソフィアは八雲の頭に手を伸ばし、ヨシヨシとなでる。
八雲は最初、驚いたように目を見開いたが、徐々に肩の力を抜いていった。
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