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03. この世界に来てわかったこと
俺がこの世界に転生して6か月が経った。
ゴーン、ゴーン、ゴーン、ゴーン
スタットベルグ中央教会の鐘楼が、朝9時を知らせる。この都市では、9時、12時、15時、18時の3時間ごとに鐘を4回突くルールとなっている。
「おお、もう9時になったか。」
俺は起床後にヴォルフスガルデン砦のまだ誰もいない食堂で、読書することが日課となっていた。
財布に入っていた学生証を見るに、自分は大学で言語学を専攻していたようで、言語学習に適性があった。3か月で、小学生低学年レベルには会話できるようになり、さらに3か月経った今では、日常会話を問題なくこなせている。俺ってもしかして天才?
言語習得後、ようやくソフィアとまともに意思疎通が図れるようになり、自分の置かれた状況を理解できた。
曰く、俺の持っている『雲紋』は霊神クラス以上の神格を持った紋章で、非常に強力な力を行使できる可能性を秘めているらしい。
そして『雲紋』の力をスタットベルグのために行使することが期待されている。
ちなみにスタットベルグには、紋章保持者が現在3人おり、2人は『土神』の紋章、1人は『霊神』の紋章を持っているらしい。
そして、俺はスタットベルグの紋章保持者だけで構成される『特別魔獣討伐部隊』、通称『特魔隊』に配属されることになるらしい。
転移初日で出会った巨大な白い化け物たちと戦う専門部隊だ。
ちょっと怖い。
しかし、半年間もタダ飯を食わせてもらっている立場の俺は、彼らの期待を裏切ることなんてできない。
受けた恩は返さねば。本当にしんどいけど、俺、がんばってみる。
これまでの経緯を振り返っていると、タッタッタッタッと小刻みな足音が聞こえ、徐々に大きくなる。
「八雲おにーちゃーん!今日も来たよーーー!!!」
声の主に目をやると、おかっぱ頭の幼女が走ってきた。
「マリアー!待ってたぞーーー!今日は何して遊ぼうか!」
マリアは、ヴォルフスガルデン砦食堂に勤めるお姉さんの一人娘だ。
お父さんも家の外で仕事しているらしく、マリアは母に連れられてヴォルフスガルデン砦に来ている。
そして、この要塞で唯一の暇人である俺が成り行きでマリアの遊び相手になっている。
正直、マリアと毎日遊んでいたおかげで、異世界語を短期間で習得できたといえるだろう。
ありがとう、マリア。
「ん-とねー、今日はヒーローごっこがしたい!」
マリアはごっこ遊びが好きだった。今日はヒーローごっこか。
「お兄ちゃんが都市を襲う悪い人で、マリアがもんしょーの力で退治する!」
「よしきた。任せんさい!」
~~~~~
「へっへっへ、スタットベルグの紋章保持者を全員倒したぞ!、この俺を止められる人間はもういない!今日から俺様、怪人クモクモがスタットベルグの支配者だあぁぁぁああ!」
「そうはさせないわ、わたしは月の神のもんしょーをもつ正義のみかた、げっこうのマリアよ!わたしがあなたを退治しちゃうから!ムーンライトビーム!」
俺たちはお互い名乗りながら、設定を確認する。
「うぎゃああああ!くっ、なかなかやるな、しかし、反撃だ!サウザンドフィンガー・オブ・ジ・アビス!」
そう言って、俺はマリアの脇腹をこちょこちょする。
「ぐううう、う、やめっ、きゃはははははは、やめてー!!!」
マリアは最初は笑うまいとしたが、笑いをこらえられず、逃げ出した。俺はマリアを追う。
「どうしたマリー!逃げるなんてつれないじゃないか!もっと遊んでくれよー!!」
「きゃーーーーー、誰か助けてーーー!八雲おにーちゃんに誘拐されちゃうー!!!」
俺は逃げ出したマリアを追いかける。逃げるマリアは迫真の演技だ。
「ーーーー八雲クン、一体キミは何をしているのかね。」
突然、氷点下を思わせるような冷たい圧力を感じた。
美しいホワイトブロンドの髪、アメジストのような瞳、すべてが美しくまとまっている絶世の美女が汚物を見るような目をこちらに向けていた。ソフィアだ。
ソフィアの凛とした声で、我に返る。
そして、自分が客観的にどう見えていたか理解した。まずい。どう見ても俺が変質者だ。
マリアはソフィアの背中に隠れて、にやにやを笑っている。図ったな!
「ち、ちがう!誤解だ!」
「・・・ああ、わかっているよ。ただ、大分見え方がまずい。
ボクは八雲クンの将来が心配になってしまったよ。
キミもいい年なんだから周囲からの見え方を気を付けてくれたまえよ。」
異世界言語を習得してから分かったが、ソフィアは普段、かなり中性的な言葉遣いをする。日本的にはボクっ娘のような話し方だ。男装したら似合いそうだ。
「八雲おにーちゃんはマリアのことが大好きだから仕方ないの。許してあげて、ソフィアおねーちゃん。」
マリアはきゃぴきゃぴ笑っている。
「八雲おにーちゃんはモテなさそうだし、売れ残ったらマリアがもらってあげるね。」
マリアは恥ずかしそうにモジモジしている・・・ってちょっと待て。
なんで俺は幼女に対してフラグ立ててるんだ。
あと、俺がもわれる側なのかよ、それと俺はきっとモテていた!(願望)
「はぁ、八雲クン・・・。」
ソフィアはくそでか溜息をついて、可哀そうな子を見るように、憐みの視線をこちらに向けている。
いや、あの、違うんです・・・。
異世界転移して半年、たまにドタバタするけど、スタットベルグにそこそこに馴染めています。
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