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「小菊、これたべる?」
「イチゴ?アンタ本当イチゴ好きよね。」
「そうだね。」
そう言いながら彼女は保冷バッグからイチゴを取り出して私の口へと運ぶ。
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私は家に入るのを迷っている。母親に何を言われるかが分からない。母親が言っていた言葉は「きっと受かっている」や「あんなに頑張ったんだから」という勇気づける言葉ではなかった。ただ「行ってらっしゃい」の一言だった。私の母親のそれは私への気遣いなんかじゃない。彼女自身が余裕がないか、私にそもそも興味がないのかのどちらかだろう。
そんなことを考えていても私から「不合格」の三文字は離れるはずもなかった。当然と言えば当然の結果。母親への恐怖だけで成功するほど高校受験は甘くない。それも中高一貫校の私立の女子高へのリベンジだ。
「ただいま」
抑揚のないその四文字は家の中に響く。次に何を言えばいいのか。母親からの返事はない。私は母親の返事を待たずに自分の部屋へ向かった。
よくよく考えれば合否なんて今どきネットでもわかる。母親はもう知っているだろう。ふと外を見ても闇夜を照らすのは都会のネオンしかない。少し空を見上げると上空に飛行機が光を点滅させながら飛んでいた。
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