1人が本棚に入れています
本棚に追加
私は高校生になった。一か月前に公立の中学の卒業式を終えた。
登校二日目だというのにしわのあるセーラー服に袖を通して通学用の自転車にまたがる。
「行ってきます」そんな言葉を言っても返してくれるのは誰もいない。
4月というのに自転車をこいでも私に向かってくるのは生暖かい空気ばかり。そんな空気がうっとおしくて私はペダルを踏みこんだ。
学校へ着けばそれなりに時間は早く過ぎる。授業を聞いていれば勝手に過ぎていくからだ。しかし、私が困っているのは昼休み。私の知り合いは全員お弁当。食堂に行く女子は私を含めて10名くらいのものだ。それも日替わりで。新学期から一週間で食堂の人に名前と顔を憶えられた。
今日は何にしようか。そう考えたが財布の中身を見て選択肢がほとんどないことに気づく。うどんの食券を買ってカウンターのおばさんに渡す。
「すみません。うどん一つお願いします。」
「あら~小菊ちゃん。それだけでいいの?若い子はもっと食べないと。」
「いえ。いいんです。今日朝少し多めに食べてきたんで。」
「いいの?」
「はい」
「ただいま」
いつもはこの四文字で1日の母との会話は終わる。
「お母さん。お昼のお金なくなった。」
「そう、そこから取っていきなさい。」
母の声を聞くのはいつぶりだろうか。そんなことを思いながら母の財布からお札を抜き取って自分の財布に入れる。
「そういえばお父さんお盆は帰れないらしいよ。」
「そう」
私の父は単身赴任中だ。ここまで親子関係が冷え切ってしまったのは父のせい。
いや、私のせいだ。
最初のコメントを投稿しよう!