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 俺には男子中学生のストーカーがいる。  初めてそいつを見たのは、早朝の駅前だった。北口の改札を出て少し歩くと橋がかかっていて、その下には線路と並行に流れる川がある。  その橋の上に学生服を着た少年が独りで立っていた。彼はただ橋の欄干に片手を置いて、豊かに流れる川を見下ろしていただけだったが、俺はなぜかこのあと彼が飛び降りるような気がした。ほとんど直感でそう思った。  まだそうと決まったわけではないのに、とっさに頭に浮かんだのは、しまった、という言葉だった。面倒な所に居合わせた、と。  その時俺は夜勤のバイト明けで疲れ切っていて、帰ったらすぐにベッドに潜り込もうと思っていたのだ。  それならさっさと通り過ぎてしまえばいいのだが、もし直感が当たっていたら寝覚めが悪い。  理不尽な苛立ちを感じながら、俺は橋の入り口に目立たないように立ち、少しの間、彼の背中を見守っていた。果たして数分後、彼は制服の左足を橋の欄干にかけた。俺は反射的に駆け寄り、彼に声をかけた。 「なあ」  彼は両手を欄干に置き、左足をかけたまま こちらを振り返った。 その顔には何の表情も浮かんでいなかった。 これから冷たい川に飛び込もうという人間の緊張も、怖れも、悲愴さも、何一つ感じられなかった。  俺は、なんか怖いな、と思いながらも、極めてフランクな口調を装い、続けた。 「ラーメン食わねえ?」  彼は長い前髪の間に覗く、鋭い目で俺をじっと見た。それは突然の闖入者の顔の中に、何かを見定めているような目だった。 *
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