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俺は現在、神奈川県にある大学に通っている。住まいは横浜駅から電車で二十分くらいの所にある学生寮だ。もとはどこかの会社の社員寮だったというその寮は名を「朝日寮」といい、二階建てのかなり古い木造家屋だった。下宿代が安いだけあって、今どき風呂無し、トイレ共同だ。経済的理由から選ぶ者もいれば、面白そうだからと選ぶ者もいる。俺は前者だ。賑やかで雑多な環境は苦手だが、できるだけ工夫して独りの時間を作りながら俺はその寮で暮らしている。
だが、共同生活をしていると、それなりのつきあいというのも必要で――。
「それでは、みなさん、かんぱぁーい!」
かんぱーい、と溌溂とした男女の声が一斉にあがる。めいめいのドリンクを一口飲んで、ふああー、とか、ひゃあー、とかいうおなじみの満足そうな声がこぼれ落ちた。
落としたオレンジ色の照明と、床に点々と灯されたブルーのライトが幻想的な雰囲気を醸し出すダイニングバーは、広いテーブルとゆったりとしたソファー席とも相まって、なかなかの居心地と言えなくもない。
テーブルは四席ずつが向かい合う形で、その男性側の端に座る俺は今、いわゆる合コンというものに参加していた。相手は近隣の大学に通う女子大生たちだ。
大学での一年はあっという間に過ぎ、現在は二年の秋。その間、俺は合コンに自分から望んで参加したことはなかった。金がかかるし、なにより疲れる。だから参加するのは今日みたいに寮のメンバーに無理やり駆り出された時くらいだった。
「おっせーぞ、まっつん」
俺の隣に座るミズタが目ざとく入口の方を見て笑いながら言った。見ると、男女四対四の席に遅れてきた四人目の男、マツダが片手で謝る仕草をしながら小走りにやって来た。
「すまん、ジャパンレイルウェイズが遅れとってん」
二年になっても全く抜けない関西弁で言い訳をすると、マツダは俺と反対の端の席に座った。
「えー、なにそれー」
女の子たちが食いつくとミズタは我が意を得たりといった様子で意気揚々と自分が代表を務めるサークルについて説明し始めた。
「実はですねえ、僕たちは同じ寮に住んでるんですけど、同じサークルにも入ってるんですよ」
正確には俺はメンバーではないが、話の腰を折ることもないので黙っている。
「えー、どんなサークルなんですか」
「これはねー、ちょっと珍しいんだけど、No Abbreviation Clubっていって、略語とか頭文字呼びとかを禁止するクラブなの。あ、申し遅れましたが、僕はそのサークルの代表をやっている水田光一っていいます。外国語学部の二年生です、よろしくね!」
ミズタはダブルピースでニヒャッと笑った。女の子たちは笑顔で拍手をする。
ミズタはやたらとはっきりした二重の目に大きな口、太い眉毛という、非常に濃い顔立ちをしている。もしゃもしゃした黒髪と明るい表情からも、陽気なラテン系を思わせた。
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