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大学が冬休みに入り、十二月最後の木曜日、俺は銭湯に行く前にあの川辺に行った。彼がいないことを確かめてから階段を下りる。
絵具で塗ったような赤い葉を持つ木が何本も立っていて、ベンチを鮮やかに囲んでいた。
昨夜少し雨が降ったので、俺はベンチが濡れていないか確かめてから、持ってきたそれを、いつも彼が座っていたベンチの右側に置く。外で本を読む彼のために買った、火を使わない充電式のランタンだ。メモの類は残さなかった。けれど彼には分かるだろう。
これはほどこしじゃない。年上としてのささやかな置き土産だ。俺はできることはした。理不尽なあいつの言動に振り回され、困惑する中でも精一杯譲歩はした。寛容だった。俺は何も悪くない。そう自分に言い聞かせる。
けれど俺は俺を騙せない。
結局俺の不幸は、徹頭徹尾自分を欺けないことにあるのかもしれない。
この二ヶ月、あいつと並んで座ったベンチと、その上に置かれたランタンを見つめる。
俺は「後藤征」と言う名前を忘れるだろうか。
二十歳の冬に、俺を強く求め、束の間翻弄した無口な男子中学生がいたと、いつかおぼろげに思い出すのだろうか。
いくら自分に問いかけてみても、答えは出なかった。
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