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しかし彼はふたたび俺の前に現れた。しかも俺を待ち伏せするという予想もつかないやり方で。
単調な倉庫作業の最中に何度もやつのことが頭をよぎった。段ボールで指を切ってしまい、余計に忌々しさが募った。男のストーカーがついたなんて、冗談にもならない。
その次のバイトは土曜日だった。講義は二限のみなので、昼には終わる。一度帰宅して仮眠を取り、午後六時くらいに寮を出た。バイトは午後九時からなので、七時に出ても十分に間に合うのだが、なんだかまたあいつに会いそうで一時間早めたのだ。
だがその小細工は失敗に終わった。彼はあれからずっとそこにいたんじゃないかと思うくらい、前と全く同じ場所に立っていた。違うのは制服じゃないことくらいだ。俺が橋に近づくと彼はすぐにこちらを見た。十一月も半ばでこの時間だと辺りはもう暗いが、駅前はそれなりに明るい。だが橋の上でずっと立っていたらさすがに寒いだろう。けれどずっと待っていたのかとは怖くて訊けなかった。
彼は前回同様、俺にまっすぐ近寄ってきて、「バイトか」と訊いた。そうだと答えると、バイトはいつだと訊かれた。逡巡していると、あいつは同じ問いを繰り返した。答えなければ何度でも質問されそうなので、仕方なく水曜と土曜の夕方から翌朝までだと答えた。分かったとも何とも言わずに彼が背を向けたので、俺は慌てて付け加えた。
「バイトから帰ったら俺は寮に帰ってその日は夕方まで寝る。だからこんな風に待ってられてもおまえとはどこにも行けないから」
「いつならいい」
振り向いてまた彼は俺を見た。言ってやりたいことはたくさんあったが、長い深夜バイトの前に、それ以上不毛な会話をする気力もなく、金曜の午後三時から二時間くらいなら、とだけ言った。彼は、じゃあ三時にココ、とだけ言って去っていった。俺は重く窮屈な鎧でも着せられたような気分で駅へと向かった。
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