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とうとう大会の日になりました。九月十六日の夜のことです。
会場はうさぎだけでなく、他の動物たちも集められて満員です。即席のステージの上では、白い大きなうさぎ、トミーが自分の体と同じくらい大きな石を持ち上げています。
『トミー選手、今年も絶好調です! 昨年の大会と同じ重さの石を持ち上げました! これ以上重い石を持ち上げたうさぎはいません!』
実況席で眼鏡をかけたうさぎがマイクに向かってしゃべります。隣には優勝者を決める長老うさぎが座っていて、じっとステージを見つめています。
トミーはやがてその石を下ろすと、ニヤリと笑ってステージを後にしました。客席からは割れんばかりの拍手が送られます。
『次は太郎選手!』
ついに太郎の番になりました。
客席の後ろの方で、ユメおばあさんははらはらと太郎を見つめます。
先に出てきたトミーと比べて、太郎はあまりにも体が小さくて弱々しそうに見えたからです。
スポットライトを浴びた太郎に、客席のうさぎたちが容赦ない野次を飛ばします。
「小さいくせに大会に出るなんて!」
「お前はいつも弱いじゃないか!」
まあ、なんてひどい、とユメおばあさんはうなりました。でもおばあさんはその場に留まったままでした。大会の前に太郎にきつく言われていたのです。『何があっても、絶対に他のうさぎに噛みついたらだめだからね』と。
太郎は耳を少し動かしただけで、目の前の石をじっと見つめました。その様子にやがて野次もおさまります。
太郎は石を持ち上げました。全身がぷるぷると震えているのが、ユメおばあさんにもわかりました。太郎は必死に石の重さに耐えているのです。
それでもしばらくすると太郎はその石を落としてしまいました。それはトミーが持ち上げた石よりずっと小さな石でした。太郎の大会はこれで終わりです。
「すごく頑張っていたわね。トレーニングの甲斐があったわ」
客席に来た太郎をなぐさめるように、ユメおばあさんは話しかけます。太郎はがっくりと小さな肩を落としてうつむいていました。
「でも、トミーより小さな石しか持ち上げられなかった。ユメおばあさんにもトレーニングをあんなにしてもらったのに」
その太郎の顔を、ユメおばあさんはぺろぺろなめます。太郎が今にも泣き出しそうだったからです。
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