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いよいよ審査結果が発表されます。
客席のざわめきがおさまるのを待って、ステージの中央にうさぎの長老が現れました。
「優勝は、太郎じゃ」
長老が厳かにそう言った途端、客席にいた太郎とユメおばあさんは顔を見合わせます。
客席がどよめき、やがてうさぎたちが口々に叫びました。
「トミーの方が大きい石を持ったのに?」
「なんで?」
「毛並みだってトミーの方が真っ白できれいだぞ!」
「確かに」と長老は続けます。
「トミーは選手の中で一番大きな石を持ち上げた。じゃが、それは去年と同じ大きさの石だ」
長老はあまり良く見えない目を、客席の後ろの太郎に向けます。
「太郎は必死にトレーニングをして、少しでも大きな石を持ち上げようとした。そして実際に今まで持てなかった石を持ち上げた。今までより成長した姿を見せてくれた太郎を、今年の優勝者としたい」
「で、でも!」
うさぎの一匹が口を開きました。
「太郎は灰色だ! 大会の優勝者は力だけじゃなくて美しい見た目も重要なんだから、真っ白な毛のトミーの方がーー」
「何を言っているのよ!」
ユメおばあさんが声を上げると、うさぎたちが振り返ります。太郎も思わず目を丸くして、ユメおばあさんの横顔を見つめます。
「一年に一度、あの大きな舞台に一晩中立つうさぎは、灰色の方がいいの!」
「そうじゃ。灰色の方がいい」
長老うさぎもうなずきます。
「おぬしらだって見上げたことがあるじゃろう。中秋の名月ーー九月の十五夜の月を。この大会で選ぶうさぎは、十五夜にあの白い月に乗って、一晩中重い杵を持ち、みんなに見られるうさぎじゃ」
長老うさぎは夜空を見上げました。
「白い月には、灰色の方がよく映える」
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