今夜一晩ずっと君を

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 九月十七日の夕方のこと、太郎はお空の世界から輝く丸い月にふわりと乗り込みました。  ユメおばあさんに「いってらっしゃい」と声をかけられ、他の動物たちにも見送られて、ゆっくりと夜空に昇っていきます。  人間の世界では、今夜は十五夜。みんなが月を見上げる日です。きっと、太郎の一番のお友達のヨウタくんも。  その頃、ヨウタくんは大きな病院のベッドにいました。心臓の病気を抱えているヨウタくんは、明日大きな手術をするのです。  太郎はずっとずっとヨウタくんのことが心配でした。ヨウタくんは太郎が赤ちゃんの頃からとてもかわいがってくれました。いつも一緒に遊んでくれて、なでてくれて、おいしいごはんをくれました。  でも、ある日太郎は病気で亡くなってしまったのです。  お空の世界に来てから、太郎はずっと下の世界にいるヨウタくんを見ていました。ヨウタくんは太郎がいなくなってとても悲しんで、一時はご飯も食べられないほどだったからです。  ヨウタくんの家の隣の家で飼われていた柴犬のユメおばあさんも、数年前にお空の世界に来ていて、いつも自分の元の飼い主を見ていました。  ある日、太郎はヨウタくんが重い心臓病にかかって手術を受けることを知りました。その手術は、今年の九月十八日、つまり九月の十五夜の翌日に行われるのです。 「太郎に会いたい……」  入院している病院のベッドで、ヨウタくんはいつもそうつぶやいていました。その声が聞こえても、太郎にはどうすることもできません。  せめてもう少し僕が近くに行けたらいいのにーー。そう思った太郎は、十五夜の月に乗るうさぎになるため、年に一度の大会に出ることにしたのです。
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