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丸い月がゆっくりと夜空を渡っていきます。
「ヨウタくん、見える? 僕、今夜一晩君を見ているよ」
月から太郎は呼びかけます。もちろんその声はヨウタくんには聞こえません。
そのとき、ふとヨウタくんがベッドから起き上がって窓際に近づきました。パジャマ姿のヨウタくんが、月を、太郎を見上げています。
「ヨウタくん」
太郎は呼びかけました。
「一緒にいられなくてごめんね。手術は怖いよね」
窓際のヨウタくんがうなずいたように、太郎は思いました。
「大丈夫だよ。きっと手術は成功する。また元気になるんだ」
太郎は小さな体を懸命に輝く月の中で、灰色の体を伸ばします。少しでもヨウタくんに見えるように。
「だから、今夜は安心して眠ってね。僕が一晩中、君を見守っているから」
やがてヨウタくんはベッドに戻っていきました。
それから太郎は安らかな寝顔のヨウタくんを見守っていました。丸いお月さまから、今夜一晩ずっと。
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