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「それから、申し訳ございません。うるさい母で」
「いいえ。おかげで退屈しませんでした」
「人の話を聞かないですよね」
「9割音羽さんの話でした」
「申し訳ございません……!」
「だから、迷惑じゃないって。さっきも説明したけれど俺自身も楽しかったし、この件はあまり気にしなくていいですよ」
ゆっくりと起き上がった片桐さんは姿勢を崩す。ベッドに寝そべるだけではなく、佇むだけで絵になる。その上、優しい声で鼓膜を撫でられ、昂った感情がエラーを起こしかける。
私のことに興味がなく、冷たくて、たまに意地悪なリアリスト。
彼を構成していたものが崩れていく。もちろん、良い方にだ。しかし、最近の片桐さんは色々と困る。
「お義母さん、ずっと嬉しそうな顔でしたよ」
そうなんだ……。
嬉しさ余って羞恥が。さらに追い込むように、心苦しさが押し寄せた。私が犬であれば、耳としっぽがやる気をなくしてだらりと下を向いていただろう。
「……あ……た、対して面白くもない話に付き合わせてしまって……申し訳ないです……」
しょぼんと項垂れていれば、片桐さんは私に向かって手を伸ばした。
びくり、身動ぎすると、片桐さんの手はゆっくりと私の頭を撫でた。いつかしてくれたように。私をあやすように。
「あっという間でしたよ。クリスマスには母親の欲しいものを強請り、七夕も母親のことを祈ってくれる娘だったと、自慢されてました」
「……く、苦労をかけてきましたので……」
ガッカリさせたり、つまらないものだったと決めつけていたのに。片桐さんは私の家族を肯定してくれるから、思わず泣きそうになった。
「結婚式、挙げた方がよかった?」
片桐さんの涼しげな瞳が申し訳なさそうに伏せられた。
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