Prolog

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ぐう、と呑気なお腹が鳴った。先程から何度も空腹を訴えているので、いい加減気づいてやらねばならない。 「(21時、か)」 最後に胃の中に入れたのは、約2時間前。帰り間際に同僚がくれたチョコレートだった。 甘さはすっかり消化酵素によってすべて溶かされ、体内に吸収されているだろう。 疲れで凝り固まった肩を落とした。終了予定は未定。しかしこれ以上の残業も建設的ではない。 「(かえろ……)」 素早く持ち帰ることを決め、うんと伸びをして帰り支度をはじめた。 エレベーターが到着するまでの間ポケットにあるスマホを取り出した。前回からの変化と言えば漫画アプリの無料チケットが回復したとの通知が届いた程度。他には何も無い。 当然だ。 この二年で嫌という程身体に馴染んだ摂理。私は悲しむという、無意味なことはしない。 「(淡白すぎる)」 今に始まったことではない。 あの人が私に一切の興味を持っていないことも知っているし、望んではならない事も知っている。 それでも、いつも、心の何処かで叶うことの無い期待を抱いてしまうのは、何故だろう。 その都度震えないスマホを見ては、期待の代わりにやるせない思いを抱く、愚かな自分。自分のことなのに、その理由の居場所が何処にあるのか、わたしは分からない。
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