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片桐さんのベッドは柔らかい。マットレスは硬いのに、シーツがやわらかいから?それとも、二人一緒に倒れ込んだから?
どちらにせよ、このまま沈んでいけそうだと、不思議な錯覚に陥る。
「(さっきより、近い……!)」
「……おやすみ、」
安心しきってとろけた声が鼓膜を撫でる。声とともに吐息が頭のてっぺんにかかる。額あたりで喉仏が揺れる。
抱きしめられて知る。無理だ。これはおねぎではない。
──……間違いなく、片桐さんだ。
引く手あまた、選り取りみどり、恋愛レベルが桁違いの片桐さんと違って、私なんてレベル1もいいところ。
「片桐さん、これでは、眠れないです」
「なまえ」
「……た、環さん。眠れない、です」
「そう。俺は寝ます」
「……あ、の、逃げませんから、……カラダの拘束だけは……勘弁してください……」
なぜ、私は許されたいと思ったのだろう。
ハグ、だけでこんなに狼狽えてしまうから?
こんなに差があって、申し訳ないから?
兎にも角にも、少しでも逃げ道をくれるのならば、縋りたい。
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