期待

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「さなちゃん、忘れました?」 ぎゅっと目を瞑っていれば、片桐さんの声が真上から直接脳内へ叩き込まれる。 「っ、え、なにを……でしょうか」 「私のことは枕でも思えって、自分で言ったの」 「……は!」 「な?抱き枕」 片桐さんの肩が小刻みに揺れる。その振動が私にも伝わる。伝わってしまう。 そういう意味ではなくて、単に、景色の一部として見て欲しかっただけ、なのに。 なんと答えても私の負けは確定されているのに、どうにか方法を考えていた。じわりと涙が溜まった。するとネズミを哀れんだのか、片桐さんは手を緩めてくれた。 「ごめん。意地悪しすぎた」 やわらかな笑顔。待ったなしで離れる温もりのなんと呆気ないことか。 じりじりと後退して距離を開けようとすると、手首を掴まれた。 信用がまるでない……! 「こっちだけ」 するりと手を取られ、自然に指が絡まる。 「手汗とか、……あの……すみま、」 「……」 「なんでもない、です……」 「(これも、悪戯の範疇、なのかな……)」
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