819人が本棚に入れています
本棚に追加
「さなちゃん、忘れました?」
ぎゅっと目を瞑っていれば、片桐さんの声が真上から直接脳内へ叩き込まれる。
「っ、え、なにを……でしょうか」
「私のことは枕でも思えって、自分で言ったの」
「……は!」
「な?抱き枕」
片桐さんの肩が小刻みに揺れる。その振動が私にも伝わる。伝わってしまう。
そういう意味ではなくて、単に、景色の一部として見て欲しかっただけ、なのに。
なんと答えても私の負けは確定されているのに、どうにか方法を考えていた。じわりと涙が溜まった。するとネズミを哀れんだのか、片桐さんは手を緩めてくれた。
「ごめん。意地悪しすぎた」
やわらかな笑顔。待ったなしで離れる温もりのなんと呆気ないことか。
じりじりと後退して距離を開けようとすると、手首を掴まれた。
信用がまるでない……!
「こっちだけ」
するりと手を取られ、自然に指が絡まる。
「手汗とか、……あの……すみま、」
「……」
「なんでもない、です……」
「(これも、悪戯の範疇、なのかな……)」
最初のコメントを投稿しよう!