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「日本のカルト・フィルム、福居ショウジン監督の『ラバーズ・ラヴァー』はご覧になって?」とマルセルが治子と岡谷に訊く。
二人とも観ていなかった。治子に至ってはタイトルも知らなかった。
「閉館っていうのかしらね、とにかく今はもうないはず……日本のレントゲン藝術研究所が撮影に使われていて、ラバースーツにぴったりな場所だったのよ」
「お詳しいですね」と岡谷が、敬語抜きの約束も忘れてマルセルの言葉に反応した。
「ええ、だってもう日本はアニメ、マンガ、それだけが輸出品ではないわ。映画や音楽、文学もまた素晴らしいものがあるのだもの」
治子のコスプレにぴったりのロケハンもマルセルは済ませていた。例の黒服は古きよき時代の雰囲気を残すホテルのほか、いくつかの廃墟などがピックアップされていた。
だから軍用スペックのブーツを準備しろっていってきたのか……と岡谷は思う。
廃墟での撮影はどうしてもいくらかの危険をともなう。たとえば釘などを踏み抜いてしまい大怪我をする、など。それを防ぐために、靴底に頑丈な素材をつかった軍用スペックのブーツが必要なのだった。
岡谷やマルセル、それに夜間飛行舎のスタッフたちにほめられたりで、来栖治子にとって撮影初日はあっというまにすぎてしまった。
しかもマルセルは、時間が許すかぎりできるだけ撮影したいと考えていた。
例の黒服以外は……。
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