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IV
一応は撮影の許可をとってあるものの、廃墟での来栖治子の黒服の撮影は手早くおこなう必要があった。
当然ながら、現代の欧州でも黒服は最大のタブーであるために。誰かに見つかってしまったらかなりの大事になってしまう……。
「とっても素敵だよ治子ちゃん、そこで鞭を丸めて手に持って、ちょっと見下すようなカメラ目線、お願いできるかな? そうそう、いい感じ……!」
岡谷のリードに治子も応える。小さな発電機からのケーブルはライトに接続され、ポートレート撮影用らしいが、その光量にあっというまに暑くなってしまう……。
休憩に入る。
ライトから扇風機に切り替えられた。暑いだろうと、夜間飛行舎のスタッフが気を遣ってくれたのだ。
一方で治子は、マルセルのなぜかぎごちない態度に疑問を感じていた。カメラマンの岡谷は軽快に、乗りよく黒服の撮影をおこなっているというのに……。
「暑いー」と治子が嘆くと、岡谷は持参していた扇子で治子の顔をあおぐ。
「本物と同じドスキン地で作った黒服だから、今の季節には暑いかも……ごめんなさいね」
そう詫びるマルセルのことばはなにか言いたそうな釈然としないトーンを帯び、彼女の表情には翳りがさした。
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