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マルセルはその報告を撮影途中の治子と岡谷に告げる。よかった……! と顔をほころばせる治子の思いがけぬ表情も、岡谷は撮り逃さない。
「どうしよう、黒服の撮影はこれで終わりにしてもいいかな」
「うーん、あくまでも許可が下りたのは明日だから……岡谷さん、黒服の撮影はもう充分かしら?」
「四箇所の廃墟でそれぞれいい絵を撮れたと思うな。明日ウエディングドレス姿を撮って、それで終わりになるでしょう」
スタジオで撮ったウエディングドレスのは、没? 治子がマルセルと岡谷の会話に割り込む。
いや、没にはしない、と岡谷。
「あれはあれでいい感じだから、アンティセプティック・チームのトレーディング・カード、そっちに回してもいいし、とにかく没にはしないんじゃないかな。小佐野隊長も」
「それならよかった!」
「とりあえず……」とマルセルは言いかけた。
「……今日の撮影おつかれさま! まずはかわいい私服に着替えちゃって」
海星や深海魚をプリントしたバイカラーのワンピースではなく、比較的カジュアルなクラシカル・ロリータのワンピースに治子は着替えた。夜間飛行舎のワゴン車のなかで。
着替えのあいだ、治子は車の外で岡谷とマルセルがなにかを話しているのに気がついたが、会話の内容まではわからなかった。
「あしたが一番きついかもしれないわね」
ロリータ服に着替え、きつねの耳を出した治子に向かってマルセルは言った。
「え、どうして?」
「古城を背景に撮るっていったでしょう。トゥールっていうところへ行くのよ。そのトゥールのロワール地区にはたくさん古城があるの、ただ……」
治子と岡谷は不安げにお互いの目を見つめた。
「フランス版の新幹線TGVで一時間ちょっと、自動車だと二時間以上はかかるわね……なのでじつは一番最初に片付けたいロケ地だったの。治子も岡谷さんも疲れちゃうでしょ。もちろんわたしも含めて夜間飛行舎スタッフも……」
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